50歳からでも友人知人や居場所をもっと増やせるのか?【定年前に考える④】
50歳からでも友人知人や居場所をもっと増やせる
「人生は60歳からが自由で楽しい」
60歳以上の先輩にそう言われたら、あなたはどのように思われますか。
「収入や仕事の事を考えると、不安ばかりだよ」
「いつまで元気に働く事ができるのか。動けなくなったら高齢者施設に入るためのお金も残しておかないと」
特に50代の方は「不安」が先に来て、「自由で楽しい」というイメージをなかなか持てないかも知れません。
老後の三大不安は「お金」「健康」「孤独」と言われています。「お金」「健康」は勿論大事なのですが、特に会社員は「孤独」についての注意が必要です。
会社員の現役時代は「孤独」にはなりません。それなりに親しく(親しくなくても)話す仲間が「会社」にいるからです。でも、どっぷり「会社」に浸かり過ぎていると退職後はあっという間に「居場所」がなくなる可能性があります。
そうであれば、50歳からは「意識的」に社外の知人友人や仲間・居場所を作っていかないと、老後は一気に「孤独」に陥ってしまいます。会社仲間とばかりでつるむのは、遅くとも40代までで卒業すべきかも知れません。
でも学生時代と違って、忙しい日々を過ごしている50歳からいきなり知り合いを増やすことなど出来るのでしょうか。
それは「出来る」と筆者は断言します。
但し、学生時代とは違いいくつか「配慮すべき点」があります。
ではどんな「配慮すべき点」があるのか。
そこで、筆者自身が50歳になった頃の話から振り返っていきましょう。
50歳は「五里霧中」
50歳を迎えて、迷える高校時代の同級生数名と新橋の居酒屋に飲みに行った時の事。女将が「高校の大先輩がいらっしゃいますよ」と教えてくれたので挨拶にいったら、「そうか君たちは今年50歳か!」と大歓待を受け、これからの人生についての個別相談が始まることに。
相談相手は、誰でも知っている超有名企業の社長をされていたO先輩。緊張しつつ勧められるままにお酌を受けて(強制ではありません)相当酔ってしまい、失態をやらかしたようではっきり覚えていないのですが「どうにかなるから、自分で考えて動いてみなさい」というエールだったと受け止めています。
「貯蓄ではなく貯人」「ギブファースト」
では具体的にどう動けば良いのか。考えながらも日々の仕事に追われ答えは出ないまま51歳になったある日、日経電子版の「定年楽園への扉」という連載コラムが目につきました。老後「不安」を煽る論調とは一線を画す「前向き」な内容に、大いに共感を覚えたのでした。
筆者は経済コラムニストの大江英樹さん。是非直接お話しを伺いたいなあと思っていたら、2016年1月から一年間で計六回の連続セミナー「定年男子 定年女子」を社労士の井戸美枝さんと開催するとの情報を得ました。参加料も一回3,000円と良心的だったので、すぐに申し込むことに。
毎回「老後のお金」「仕事」「家族・友人・コミュニケーション」「健康と介護」などのテーマが設定され、セミナー後は次回までじっくりそのテーマについて反芻する事により、定年に向けた目標を整理でき充実した一年となりました。堅苦しい雰囲気もなく、毎回「大人の秘密基地」に行くような楽しさがありました。ゲストスピーカーも毎回様々な専門家の方が登壇され、一気に視野が広がりました。
大江さんからのアドバイスは様々にあったのですが、人間関係については
「貯蓄ではなく貯人」、そのための「ギブファースト」
と言われていたのが印象に残りました。
そして、会社を離れた「新たな人間関係」が定年退職後に独立した自分を救ってくれた、と。
でも今からどうやって「新たな知り合い」をそんなに増やせるのか。名刺交換会はギブを受けたい「テイカー」ばかりだし、「趣味」の交流はいいと思うが「それだけ」では広がりに限界があるように思うし・・・。この時点ではなかなかイメージが湧きませんでした。
その後52歳の夏に、大江さんから直接声を掛けていただき「定年男子の会」という十数名の集まりに立ち上げ時から参加する事になりました。この新たな「居場所」で筆者はほぼ最年少だったので、定年前後の先輩方の様々な葛藤や想いを「同時進行形」で共有させていただきました。
「金融機関を定年退職後に浄土真宗の僧侶になった方」「カフェ開店を目指し人気のパン屋で修行をされた方(今は文筆業をされています)」「仕事量を減らして水泳の練習に打ち込みついに背泳ぎのシニア日本一になった方」「趣味の城址巡りで全国制覇された方」などなど、殆どの方が60歳から転職・独立などでやりたい事にチャレンジされていきました。すでにリタイアされている方も、若者と楽しく交流を重ねて充実した日々を過ごされていました。
元々はみなさん「普通のサラリーマン」だったのですが、同じく38年間サラリーマンだった大江さんの定年退職後の活躍ぶりに、大いに刺激を受けたのだと思います。とは言え定年男子の会自体は「ただの飲み会」で、特にテーマもなく肩の力を抜いて談笑するだけでした。でもその緩さが良かったのかも知れません。
自分で動いて試行錯誤するのが大事。動けば何かが見えてくる。
あらためて、「自分」で考えて「自分」で動いて「試行錯誤」するのが大事だと思い、引き続き話を聞いてみたい方のセミナーや、専門家や投資家が集まる会合に顔を出し、懇親会にも参加してより多くの方と交流を広げていきました。
具体的なことは前回のブログ「定年後は「雇用延長」を選ぶべきか?」にも書きましたが、まずは副業の名刺を交換し、SNSで繋がりを持ち、相手の志を理解するよう努め、自分の考えを発信する。そのような地道な活動を続けていきました。
そこから専門家の勉強会にもお誘いいただき、様々な知見や最新の情報を惜しみなく教えていただく機会にも恵まれています。
「マネーリテラシー総研」のブログを始めた頃、著名な方々は読まれていないだろうと思って油断していたら、意外に読んでいただいている事にも驚きました。そして様々な方から直接間接にアドバイスや応援メッセージ、時には厳しいご意見などをいただく事があり、感謝しています。
以上のように、やはりSNSは人間関係を広め深める「きっかけ」となる非常に有効なツールです。SNSがなければ単なる名刺交換だけで終わっていたかも知れません。使い方によって長短あるものの、SNSは「リアルの関係を補強するツール」として上手に活用いただければと思います。
「大人の距離感」が必要
「今更いろんな人に話を合わせるのも面倒だし、学生時代のようにすぐ友達になれるわけではないだろう」という方もいると思います。
そうであれば、まずは学生時代の旧交を暖めるところから始めてはいかがでしょうか。
なおその際は相応の「配慮」が必要です。ついつい学生時代に戻り過ぎて相手のカンに触るような軽口をたたいてしまうと、折角再会したけれども逆に疎遠になってしまいます。特にお酒が入りすぎると要注意です。
お互い人生経験を積んだ大人同士なので「親しき仲にも礼儀あり」、武道で言うところの「自尊他尊」がうまくいくコツでしょう。
「大人の距離感」を保ち、お互い成長した友人と称え合う、支え合うように出来れば理想です。
また、この年齢になると「自分の軸」が出来上がっているゆえに、「独善的」になっていないかどうかの振り返りも必要です。特に会社で出世した人ほど要注意です。
独善を防ぐためには「全く違う分野」の人との交流や、「未経験の趣味」を始めるなどの挑戦が有効です。一つの居心地の良い場所に留まらず、複数の異なる雰囲気の居場所を持っておくと良いと思います。
新たな居場所では難しい顔をせず、緩くニコニコしながら人の話に耳を傾けるだけでもいいのです。口角を上げてゴキゲンを演じていたら、本当にゴキゲンになって楽しくなって来るものです。
新たな居場所をつくる
それでもなかなか「いい居場所」がないというなら、いっそ新たな居場所を一から作ってしまえ、という発想もあると思います。
新たなコミュニティを立ち上げる際、特に不特定多数の方を対象とする場合に重要なのは、雰囲気の良い居場所となるよう「方針やルール」をしっかり明示することでしょう。
50代以上の方を対象にした「Good Elders」という300名規模のコミュニティでは、「いばらない。おこらない。否定しない。説教しない。」を参加ルールにされています。そして「同調圧力を作らないこと」を重要な方針として、ゆっくりじんわり温かい「焚火」のような長期スパンのコミュニティを目指しているそうです。
これから新たなコミュニティを作りたい方は、参考にされてはいかがでしょう。
60代からの自由を楽しめたら本望
特に60代は様々な制約から解き放たれた「自由で楽しい実りの時期」であるならば、これを楽しまない手はないと思うのです。
「人生の目的とは何か」、それはシンプルに「幸せになること」と定義するならば、より身近な人を大切にして「小さな幸せ」への感度を高くしたいものです。
60代はそういう「知足」が理解できる年齢のはず。必要以上に「不安」にとらわれず、「孤立」に注意しながら「60代からの自由」を楽しめたら本望ではないでしょうか。
(マネーリテラシー総研 代表 尾崎 哲郎)
まとめ
・「貯蓄ではなく貯人」。50歳からでも知人友人は増やせるし、居場所も作れる。但し「大人の距離感」の配慮が必要。「ギブファースト」「自尊他尊」「同調圧力を起こさない」などを心掛けること。
・自分で動いて試行錯誤するのが大事。動けば何かが見えてくる。
・60代は様々な制約から解き放たれた「自由で楽しい実りの時期」。過度な不安で楽しまないのでは勿体ない。
参考資料:
「定年男子・定年女子」セミナー (以下は第2回セミナーの告知)
https://www.officelibertas.co.jp/seminar20160326.html
※セミナー終了後、日経WOMAN編集長(当時)の安原ゆかりさん編集により書籍化されました。
・定年前に考える①、定年前に考える②、定年前に考える③もあわせてお読みください。