「年収の壁」の多すぎる誤解を一気に解く!
前回登場した、横浜郊外に一軒家を構える会社員世帯の妻A子。今日は久々に学生時代の友人B子、C子と銀座で会うことに。資生堂パーラーでアフタヌーンティー?なんて思っていたが予約で一杯のため、別の店に移動することに、、。
第三号被保険者の保障は「最低限」、安易にオトクとは言えない
A子(横浜市郊外在住):アフタヌーンティーじゃなくて、いきなり大衆居酒屋で昼飲みになっちゃうの?でもここの鳥豆腐やお刺身美味しいからね。すみませーん、ビール大瓶、赤星で。
B子(東京都中央区在住):昼ビールは背徳の味 ❤
C子(千葉市美浜区在住):そういえばA子、扶養から外れて長く働くんだって?
A子:そうなのよ、パートの時給アップで「106万円」の壁を超えたんだけど、会社からは人手不足なのでもっと働いてもらえないかって言われて、いろいろ考えた末に就業調整せず長く働く事にしたわ。社保も充実するしね。
C子:私の勤務先は従業員数が少ないから「130万円」の壁なんだけど、「二ケ月連続」で月108,333円(年130万円÷12ケ月)を超えたら、夫が加入している健保組合から「扶養の認定基準」から外れたって通知が来たのよ。
A子:えっ、扶養って「年額」判定じゃないの?
C子:それが健保組合では独自に「月額」で基準を設定できるらしいのよ。扶養から外れる基準をWEBで調べたら、私のような「二ケ月連続」以外に「三ケ月連続」や「三ケ月平均」で108,333円の超過だったり、いろいろなのよ。
B子:それは知らなかったわ。それでC子どうしたの。
C子:自分で国民健康保険と国民年金の保険料を払う事になって。月22,500円の負担増なのよ。社保の助け合いサークルからはじき出されて悲しい気持ちよ。ホントに。
A子:負担が増えても保障内容は今までとほとんど変わらない、、。
C子:それでね、108,333円を超えない月が二ケ月続いたらまた扶養に戻れるっていうんだけど、繫忙期もあるじゃない。なんかもう毎月就業調整するのも面倒になってきて、週30時間以上働いて被用者保険(厚生年金保険と組合健保)に入ることにしたのよ。年金が二階建てになり医療保障も充実して、更に保険料も大幅に安くなるから ※、絶対お得よ。
A子:C子も被扶養家族から立派に卒業ね、おめでとう!もう一杯飲んで。
B子:やっぱり被用者保険ってありがたいわね。私は第三号被保険者の方が保険料の本人負担がないからオトクだと思っていたけど、保障は最低限だしね。配偶者が急に病気で働けなくなるリスクだってあるし、将来の年金の事も考えたら、安易にオトクとか言ってられないか。
A子:年収の壁なんて一旦乗り越えればなんてことないわよ。被用者保険に入りたくても入れない人だっているんだから、将来の年金確保のためにも乗り越えるべきよ。まあ私も乗り越える前は「働き損になる」とか思っていたけどね。後悔しないように制度の内容を理解してから判断すべきだわ。
C子:でも年収の壁って「103万円」や「150万円」もあるし、正確に理解するのは本当に難しいわ。会社の上司や同僚も言ってることが違うし。
A子:そうねえ、、まあ今日は楽しく飲むとして、私が調べておくわよ。
B子:そう?ではよろしく~!
(そして昼飲みは場所を新橋の串揚げ店に変えて夜まで続く・・)
「130万円」は「扶養されるか、されないか」の基準
~翌朝、横浜市郊外のA子の自宅にて~
A子:・・・というわけなのよ。「年収の壁」って正確にわかりやすく説明するのは意外と難しいのね。
A子の夫(以下 夫):「壁」なんて大げさなものじゃなく、単なる「手取りの段差」に過ぎないんだけど、、。とにかく整理していこうか。
A子:みんなに説明するから、わかりやすくお願いね。
夫:まずは基本形「130万円」、これは「扶養されるか、されないか」の基準なんだ。
扶養されている配偶者が年収130万円や月収108,333円(残業代・交通費などを含む)を超えると、扶養から外れて自分で保険料(国民年金・国民健康保険)を払う必要が出てくる。まずはこの基本形をしっかりおさえないと、混乱するので注意が必要だね。
A子:まずは大原則ね。
夫:保険料の負担を軽くしてかつ保障を充実させるためには、被用者保険に加入すべきなんだけど、原則は週30時間以上働く必要がある。
A子:週30時間だと週5日×6時間勤務ね。時短勤務としては確かにハードルが高いわね(C子、よく頑張った!)。
「106万円」は「適用拡大」のためのハードルを下げた基準
夫:そこで「年収130万円・週30時間」から「年収106万円・週20時間」にハードルを下げて、より多くの短時間労働者が被用者保険に加入できるようにする「適用拡大」が進行中なんだ。
A子:この「106万円」には残業代や交通費は含まないけれど、時給1,100円超で週20時間働けば乗り越えられるから、かなり低くなったハードルよね。
夫:但しこの「106万円」は従業員数が少ない企業には強制適用されていないんだ。まず2016/10から「500人超」の企業が強制適用の対象になり、2022/10から「100人超」、2024/10から「50人超」に下がってきている。そして「50人以下」への早期適用拡大が最重要課題なんだ。子育てや介護などで長時間勤務できない人も「被用者保険」に入れるようにするためにもね。
A子:130万円と違って106万円は「乗り越えやすいようにハードルを下げた基準」だから、106万円を「壁」とかいって「就業調整」するのは本末転倒ということね。
夫:どう考えても被用者で働ける環境にある人は、どんどん働いて「被用者保険」という「助け合いサークル」に入ったほうが幸せだと思うよ。そしてこの「就業調整」自体を無くすための方法として、現在「厚生年金ハーフ」という選択肢も提案されているね。
まずは制度の理解が重要
A子:まずは制度の理解が重要で、その上で本当に目先の手取りだけを優先していいのかを判断すべきよね。
夫:そして以前は「夫婦世帯で一馬力」が主流だったけど、今や「共働き」や「単身世帯」「片親世帯」など様々だからね。個人単位で将来の年金を考える時代だろうなあ。
A子:ところで、「103万円」や「150万円」の壁って何なの。
夫:あれは壁でも何でもないよ。「103万円」は所得税が発生する基準で、手取りの段差は起きない。「150万円」は配偶者特別控除が減り始める基準で、こちらも手取りの段差は基本起きない。これらを年収の壁と言うのは「誤解の底なし沼」にはまっている感じだね。まずは「被用者保険」に入る意義を理解して、もっと働ける人は就業調整などせずに「誤解の底なし沼」からさっさと抜け出すのが「前向きな選択」じゃないかな。
A子:ありがとう。早速友達に解説するわ(では今週末にアフタヌーンティーの予約を入れようかしら。でも満席かなあ、、また昼飲みも魅力的だけどね)。
(つづく)
参考:適用拡大の詳細についてはこちらを参照下さい。https://www.mhlw.go.jp/stf/nenkin_shikumi_009.html
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