ストーリー
ネズミはきらわれものでした。
汚い下水道に住んでいましたし、町中のお家の壁に大きな穴だって開けて回りましたから、町の人々はみな、ネズミをあたりまえにきらいました。
ある人たちはネズミを見るたび、冷たい石をなげました。
またある人たちはネズミからみんなそろって目をそらし、叫んで逃げていきました。
そんなネズミにも一人だけ、たった一人きりの大切な友だちがいました。
赤い服を着た女の子、ネズミはその子をミトと呼び、その子はネズミをネモと呼びました。
ミトとネモは出会ってすぐに仲良くなりました。何をするにも力を合わせ、どこへ行くにも一緒でした。
ある夜、ミトは町長さんに呼ばれて、一人で出掛けていきました。
町長さんは、町の人々の中でも一番に、ネズミを嫌っていたのです。
町長さんはミトに、ゆっくりと言いました。
「ネズミは、ひきょうでいじわるで、汚らしい悪者だ。一緒にいるのはやめなさい。」
けれどミトは、もっとゆっくり丁寧にこたえました。
「ネモは、今まで出会ったどんな人より、私を助けてくれました。私が間違っていたら、ちゃんと教えてくれましたし、正しいことをするときは、必ず喜んで手伝ってくれました。」
ミトはまだ、続けます。
「下水道に住んでいるのは、みんなが見たくないと言ったから。壁に穴を開けたのは、大火事の日に閉じ込められた人たちを助けたかったからだと思います。なぜ、みんなネモを嫌うの?ネモは悪いことなんて、してません!」
「この町は不幸せだ。大火事が起きたり、水害が起こったり。早く変わらなければならない。変えなければ。」
町長さんはミトをギロリとにらみました。
「これほどみんなに嫌われる、ネズミは絶対悪者だ。ネズミを追い出せば、きっとこの町は平和になる。みんなが幸せになれるんだ。」
町長さんはそう言って、ミトとネモを町から追い出してしまいました。
ミトとネモはそれから、ずっと一緒に旅をして、あの町から50個目の小さな村で幸せに暮らしました。
ちなみに、あの町の町長さんはと言うと、ネモの代わりにいじめられて、みんなから町を追い出されてしまったそうです。