モネ
「ねぇ、ちょっと、……聞こえてる?こっち見て……よ……」 「ちゃんと聞いてますって!」 何度目か知れない問いかけについ声を荒げてしまう。 言いながらまっすぐ団長の目を見たのに、当の彼女の視線は、私の目線よりやや高い位置でぴたりと静止していた。 「あの、団長?」 そっと目の前で手を振ってみる。 ……無反応。 今なら何言っても大丈夫かも? こっそり 「音痴団長~」 「………」 これは……聞こえてない! 「あほ!!ぼけ!!顔面塗り壁!!音痴~!」いざとなると、小学生男子みたいな
手紙を書いてみよう。 ふと思い立って、フランチェスコは引き出しからびんせんを取り出しました。とびきり上等な、淡い桜色のびんせんです。 それから机に飛び乗って万年筆を持つと、ちょっと考えて、書き始めました。 葉ちゃん、フランチェスコです。 ぼくはちゃんと、元気です。 きょうは、葉ちゃんにお手紙を書こうと思います。 大きな水晶玉、赤レンガの大きな工場、夜になると浮かぶ無数のキャンドル。 ここには話して聞かせたい、きれいなものが色々あるけれど、とりあえず、お家
ネズミはきらわれものでした。 汚い下水道に住んでいましたし、町中のお家の壁に大きな穴だって開けて回りましたから、町の人々はみな、ネズミをあたりまえにきらいました。 ある人たちはネズミを見るたび、冷たい石をなげました。 またある人たちはネズミからみんなそろって目をそらし、叫んで逃げていきました。 そんなネズミにも一人だけ、たった一人きりの大切な友だちがいました。 赤い服を着た女の子、ネズミはその子をミトと呼び、その子はネズミをネモと呼びました。 ミトとネモは出会っ
時々、自分は何のために生きているのか、本当に分からなくなることがある。いくら考えても答えなんて見つからない。なのに、考えは私を捕らえて放さない。延々と悩み続けて、気付けば24年も生きてしまった。退屈な田舎町の片隅での、細々とした暮らし。 最近、本当に、分からなくなるときがある。 「ねぇ!!!」 今日は災難続きだ。 いやにリアルな悪夢にうなされ、泣き叫びながら目を覚ました。お気に入りだったマグカップが割れた。何もないところで、三度も転んだ。 朝か
真空を私の声と打ち砕く 身体震えた後の喝采
富士山に月見草ばかり添えるな 新しい言葉を作りなさい
牛乳瓶掲げる君を知った朝 初めて青空を見た気がした
「自由に」なんて考えたこともない 何も望まぬ自由をください
ヒョウ柄の鞄の中に潜む蛇 ヌラリと光る僕を見据えて
仰いでも仰いでも青い空へ告ぐ 昨夜雨漏りした隙間から
のどかなる緑茶の朝と目覚めしは 君と二人でゆく道の駅 旅路にて渡れる橋の赤煉瓦 初夏の露流しゆく道
―「好き」って感情は理解出来ても、「恋しい」っていう感情は理解できない気がする。炭酸の泡が弾けていくように、口に含んだ綿菓子が消えていくように、脆く儚い青春。誰もが急に大人びて、生き急ぐ不思議な季節。でも、人生を丸ごと例えるなら、丁度梅雨にあたると思う。じめじめ、じめじめ、鬱陶しい。― 「………ね、そう思わなぁい?」 酒瓶片手に女は叫んだ。ボサボサの髪を掻き上げながら、タンクトップの猫に百面相をさせながら。 「美雨、下着見えてるよ。スカートで胡座とか……。私の