役柄 #毎週ショートショートnote
もっと!もっと感情を爆発させろ!お前は、このままじゃ死ぬんだぞ!足りないだろ、そんなんじゃ、もっと役になりきれ!
演出家の檄が飛ぶ。
芝居のクライマックス、気鋭の脚本家と、今をときめく演出家のコンビは、舞台上に森を作り、雨を降らせた。
俺は、蜘蛛の役だった。
・・いや、感情って何よ。虫に、いや蜘蛛に感情なんてあるのかよ。だいいち、命乞いする蜘蛛の役なんて、誰ができるんだよ。
気持ち悪さと闘いながら動画を見て、スパイダーマンのDVDをコンプ。ヒルズのモニュメントを飽かず眺めて、その足先に触れてパワーをもらう。
気鋭の蜘蛛研究者、久本生来の所属する大学の講義にも潜り込んだ。
不思議なことに、蜘蛛にも感情らしきものはあるらしい。ただそれは人間と違って怒りと諦めのようなものしかないらしい。
命が奪われそうなとき、蜘蛛は、怒るのか諦めるのか。
「荒唐無稽とも思える設定だが、逃げずに真摯に演じた彼の手足は8本に見えた」初日の劇評は、賞賛の言葉が並んだ。
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