鋼材 #毎週ショートショートnote
あれ?曲がってないか?
列島を縦断した台風4号の勢力は恐ろしかった。
街路樹を折り看板を飛ばし、ゴミ箱らしき樹脂製の蓋があちこちに落ちている。
今春、鳴り物入りで開館したこの水族館も、建物の被害こそないものの、シンボルのオブジェが破損した。
地元ゆかりの芸術家による「地球」のオブジェだ。
高耐水性のステンレス製で、継ぎ目のない加工を施し、見る角度で変化する凹凸のある陸地の陰影は、いつまでも観ていられた。
球体の美しさに拘った作品には、まさに汚点ともいうべき黒点がたったひとつ打たれていた。市長が「ここが、我が街だと伝えねば」などとおかしな事を言ったからだった。
破損を口実に、“汚点”を消してしまおう。
黒点はしぶとかった。シールのように貼られていたわけではなく、わざわざ強度を高めた黒い鋼材を溶接していた。火花が散って、周囲からひどい匂いがした。
あろうことか、日本列島が溶けて流れていた。
黒点は取れた。日本列島はなくなった。
それでも地球は曲がってる。
(420文字)
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