挙手 #毎週ショートショートnote
「人生は洗濯の連続ですからねぇ!」
お決まりのフレーズをキメると、慇懃な笑みを顔に貼り付けて、大袈裟な手振りで、新型の洗濯機の蓋を開けた。今月発売された洗剤の香りは、秋らしいキンモクセイだ。
ドラム式洗濯機の実演販売なんて、日本じゅうどこの店でもやっていないだろう。衝動的に買える値段ではないし、持ち帰るなんて、できるわけがない。
客の「これいいかも」につけ込んで、今日だけ、今だけ、残りわずかと煽り、売りつける。そんな常套手段が使えないのに、何が楽しいのか客が集まってくる。
とはいえ、集まる客は時間ばかり持て余す老人ばかり。洗濯機を買う気は更々ない。しかし、ここからが本番だ。
乾燥を終えた洗濯物を手に取って、台の上で広げて掲げた。
「人生は選択の連続ですからねぇ!おひとり、1点限り!」
「1,000円!」「1,500円!」「こっち!3,000円!」「ご、5,000円!」
白熱した声と、争うような挙手に、空気が熱くなった。
噂の、ランドリー・オークションが始まった。
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