ここにいた僕
TOEICや、検定試験、資格の試験などの試験会場で、大学や高校が設定されることがある。何かの拍子に、自分が通っていた学校が試験会場になることもある。
そんなわけで、先日、自分が卒業した高校が試験会場となった。試験への緊張感と、あの頃のノスタルジーとともに会場入りした。
校舎が建て変わり、すっかり当時の雰囲気なんて無くなってしまって、綺麗な校舎を目にして(きれいになって、よかったねぇ)と思っていたが、教室の外に並んだロッカーの南京錠を見て、あぁ懐かしいな、そうだったな、と思い出した。
多くの高校でそうかもしれないが、そのロッカーには私物を入れているのだ。部活の道具、教科書、ノート、人によっては貸し借りしているマンガやゲームも入っていたのかもしれない。
僕が通っていた頃は、教室は土足で床には砂やほこりが溜まっていたし、冷房がなかった。結局冷房が教室に導入されたのは3年生の9月とかだったな…。男子校だし、まぁいいかくらいの感覚でもあった。
学年ごとに校舎が分かれ、そのどれもが古びていた。天井が高くて、階段が多くて、床が硬かった。学年で10以上のクラスがあり、同じ学年でも一度も出会わない人がたくさんいた。
今の学校には、どの校舎も残っていない。だから、自分があの頃の学校の、どのあたりにいるのかも分からなかった。
教室はホワイトボードになって、全体的に白っぽい教室に清潔感を感じる。落書きと傷だらけの机なんてないし、裏にガムがこびりついたイスもなかった。数年前に、男子校から共学に変わっていた。
トイレに向かうと、当たり前だけれど男子と女子のトイレがあった。その光景は、僕が高校生だった頃にはなかった。当時、女子トイレは職員室のそばにしかなかったから。男子校だから、必要ない。
トイレから出て、ぼんやりと廊下の窓の外を見た。すると、すっかり変わってしまったはずの光景の中に、かつての記憶が重なるように目の前に現れた。何が起こったのかよくわからず、もう一度目の前の景色に目をこらした。
そこには、部活で練習していた時に見ていた、学校外の街並みがあった。戸建てが立ち並ぶエリアがあれば、遠くには丘陵にそって建つ大きな建物(病院や大学?)が見える。中でも、スーパーマーケットのロゴの看板がてっぺんにある建物は、周囲の建物よりも数階分飛び抜けて見えて、目印のように覚えていたのだった。
部活がある時、個人練習やパート練習の時には必ずと言っていいほど、その景色を見ていた。文字通り、朝から晩まで練習していたのだから。トランペットパートは、4階の端の教室だった。ちょうど今自分がいるフロアも4階、見ている方向も同じだった。
途端に、高校時代のことが思い出されて、何か熱いものが迫り上がってくるような感覚を覚えた。このままでは泣いてしまうかもしれない。これから試験だというのに。
ちょっとびっくりした。全く雰囲気の違う場所になったと思っていたけれど、たまたま高さと方向が一緒になったから、景色が重なった。それは、あの頃の自分に出会ったような気分だった。
あの頃、少なからず頑張っていた自分を覚えている。大人になって、まさか試験を受けにくるとは思いもしないだろう。高校生の永遠のように感じた時間も、過ぎてしまえば驚くほどに短かった。
試験が終わって、またあの景色を見ようと窓の外を見ると、視界の端に、僕が入学した年に建てられた体育館の屋根が見えた。その景色もまた、26年もの隔たりがあった。
変わってしまったものはいくつもあったけれど、変わらないものに気がついた自分を、ちょっと褒めたくなった。試験の結果よりも、またこんな形で母校に来てもいいだろうかと、誰にともなく聞きたくなった。
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