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名月 #毎週ショートショートnote

忘年会シーズンの居酒屋も、僕は苦手だ。酔っている奴等の声はでかい、料理が出てくるのは遅い。お酒に弱い、口下手、声が小さい僕は、飲み会が苦行でしかなかった。

「来年もよろしく頼む!」

でかい声で課長が閉会を告げた。
作り笑いとおざなりな挨拶を残し、僕は店を出る。酔った頭に、冬の風は心地よかった。

足に何か当たった。見ると、りんごが転がっていた。どこから現れたのか、漫画のようにそれが盛られた紙袋を抱えた男が立っていた。

「そちらどうぞ。お礼です。」

俄かに信じられなかったのは、男が真っ赤なスーツを着ていたからだった。何のお礼?返そうにも戻すべき手は袋を抱えている。

「今夜のような赤い満月のときは、それを齧ってはいけません。」

通り過ぎた声が耳に残る。表情は分からなかった。振り返ると、男は消えていた。お約束のように。


満月を一瞥し、くるりと背を向けて歩き出す。


シャリッ

それは甘酸っぱく、僕の喉を癒す。

なんだ、ふつうじゃないか。


カップルとすれ違いざま、声が聞こえた。

「あの三日月、漫画みたいじゃね?」


(450文字)


#毎週ショートショートnote #忘年怪異 #りんご #満月 #赤 #そんなに怪異ではない


みんな大好きアドベントカレンダー!

昨日は、(もつにこみ風)バクゼンさん。覚えてない、振り返れないと話し出したのに、最後は来年のことまで思いを馳せるという、企画冥利に尽きるテーマの活用ぶり!ありがとうございます。いろんな方の投稿に「出」ておられました。

我が子たちのアドベントカレンダーも着々と…と思いきや、意外と日付が追いかけられてない!クリスマスの日に、一気に食べることになるかも…(笑)

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もつにこみ
最後まで読んでいただき、ありがとうございました! サポートは、僕だけでなく家族で喜びます!