巴里 #毎週ショートショートnote
「ひと夏ってさぁ、どれくらいだと思う?」
意味深な質問をする声に振り返った。
そこにはいつもと変わらぬ彼の姿がある。
明日は、パリに発つ日。
日の丸なんて背負いたくないけれど、
世界と戦いたい気持ちはある。
「また君は、
言われたり、書かれるんだろうね」
なぜか寂しそうに彼が続けた。
試合に勝てば、超高校生級ならまだしも、
超人とか人間離れしているとか、
言いたい放題。
こんなに華奢な高校生だというのに。
言い返したくて、後ろ向きに言葉を放る。
「ひと夏の人間離れ、かもしれない」
オリンピックの開会から閉会する間だけ、
注目されればいい。
ひと夏は、短くていい。
ちょっと視線を泳がせた彼が、気がついた。
「それじゃあ、僕が困るんだ。
ひと夏は4年に1度ってことだろ?」
言い終わらないうちに、
彼は慌ててスマホの画面に指を滑らせて、
何かを検索していた。
「ひと夏は……3ヶ月、らしい。
うん、そうか、だいじょぶ。長いな。」
独り言なのか、それとも何か。
彼の声が小さくてよく聞こえなかった…
ことにしよう。
(450文字)
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