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獅子舞has噛む
記憶に残っていない子どもの頃を除けば、人生で初めての経験でした。これを読んでくださっているあなたは、獅子舞の獅子に、ご自分の頭を噛まれたことはあるでしょうか。
獅子舞はお正月の縁起物として、お囃子の音楽に合わせて踊られます。獅子舞を久しぶりに観ながら、思い出していました。幼い頃の僕は、あの厳しい顔が怖くて、時おり“パン!”と噛み合わせられる音も仕草も嫌だったなあ…。
塞の神、どんど焼き、お焚き上げ、さまざまな言葉で呼ばれる正月飾りや書き初めを燃やす行事、僕の暮らす地域では成人の日に行われるのが恒例になっています。
稲城に暮らして、「どんど焼き」が過去の歴史ではなく今も続いていること、祭りのたびにお囃子が聞こえてくることを知り、それに関わる人たちの知り合いもできました。
当日、自宅でお正月に飾っていた正月飾りや、子が練習していた書き初めの半紙を燃やしてもらうため、家族で会場へ。点火の時間を待っていると、お囃子が始まり、獅子舞やひょっとこが出てきました。
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1歳の下の子にとっては、獅子舞は初めまして。獅子は相変わらず怖い顔でしたが、子はキョトンとしていました。観覧客の頭を次々に噛んでいって、我々の前に。ベビーカーに乗る子は、何が何やら分からない様子でした。すると、声がしたのです。
「大丈夫ですか?」
どこから?と顔を挙げると、獅子頭はあさっての方向を向いていて、声だけが正面から聞こえてきました。ずいぶんと丁寧だけど、シャイな獅子だなぁ。
「大丈夫です。お願いします。」
獅子は話さないと思っていたので、まさか会話をするとは、と静かにテンションが上がっていく僕。獅子は、ゆっくりと優しく我が子の頭を噛みました。何が起こったのか分からない子は、相変わらずキョトンのまま。獅子は、ほっとしたのか、今度はちゃんと僕を見て、嬉しそうな声で話してくれたのです。
「お父さんも」
え?いまなんて?
「せっかくですから、お父さんも」
子どもだけじゃなかったの⁉︎
ちょっと恥ずかしい気持ちもありつつ、せっかくなのでと頭を向ける。我が子の時と同じように、ゆっくり優しく噛んでくれたのでした。
獅子に噛んでもらうと、どんなご利益があるのだったかな。健やかに育つ?厄払い?頭が良くなる?とりあえず、縁起が良さそう。それで十分だなとも思っていました。
この投稿を書くにあたってご利益を調べてみると、噛みつく→神つく→神が付く、のような語呂合わせもあるのだとか。
あんなに怖い顔をしていた獅子が、幼い我が子を怖がらせるんじゃないかと心配してくださっていたのが、優しくて何だか印象的でした。
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