合羽 #毎週ショートショートnote
ターミナル駅の一角に、わたしの働くジューススタンドはあった。夜中からの雨が止まずに、降り続いていた。
雨が降ると、必ずやってくる小さな男の子がいた。
ママやパパらしき大人は、いつもいなくて、あっちだよ、とか、むこうかな、なんてはぐらかされてしまう。
水色のレインコートは、てるてる坊主みたいでかわいい。
「こんにちは、いいあめだね。んーと、いつもの、ちょうだい」
この挨拶にも、もう馴れた。
雨の日限定ミックスが、“いつもの”ジュースだ。前日に残ったり、解凍した果物を使うから、日によって味が変わる。値段はいつも500円。
朝から美味しいジュースなんて、子どもにはもったいない…いやいや、大切なお客様だ。
ジュースを手渡すと、ばいばい、と空いている手を振った。その足元に、レインコートと同じ色の封筒が落ちていた。
カウンターの中から「ふーとー!」と叫んだけれど、届かなかった。男の子は雑踏に紛れていた。
お客さんがいなかったので、慌てて通用口から出て封筒を拾う。不思議なことに封筒は全く濡れていなかった。整った字が見えた。
「ジュースやのおねえさんへ」
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