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フル☆チン
お風呂上がりの息子が素っ裸で走っていた。
その姿を見てとっさに口から飛び出した言葉。それはもう何十年も私の口から出たことのない言葉だった。
「フルチン!」
なんとも自然に出てきたその単語を脳内で反復した。
フルチン。
フルチン。
フルチン。
それにしたって・・・・
フルチンって一体どういう言葉なんだろうか。
そう、その日も私の思考は無駄に活発だった。
今思えば、昔は身近だったこの言葉。当時は丸出しのチンチンに対して使っていたけれど、その言葉について真面目に考えたこともなかった。
フルチン・・・うん、略語のような匂いがする。
英語圏にすんでいる私はとっさに英語で考えた。
フルは英語のfullだろうか。それなら「いっぱい」とか「たっぷり」という意味が一般的。
そうなるとフル+チン=チンチンでいっぱい。
つまりチンチンが前面主張しているということだろうか。
いや、まてよ。
フルチンのチンはどう考えてもチンコのチン。
フルチンが英語の言葉ならチンも英語になるはずだ。ならばフルチンという単語自体が日本語だろう。そう思ってネットで調べてみた。
Weblio辞書によると、フルチンとは男性器を丸出しに、ぶら下げている様子。らしい。別名フリチン。
フルは、振る(ぶらぶら)の方か!
まさかフルチンのフルは振り子時計と同じ「振り」だったとは。
丸出しのチンがフリフリと揺れる様=フリチン=フルチン。
完璧だ、素晴らしい。
独自の真実を導き出し、満足感に浸っていると、アドレナリンが溢れ出した。そして私は顔を紅潮させながら、聞かれてもいないのに家族全員にフルチンの語源を説明した。
子どもと言う生き物は好奇心が旺盛だ。パンツもズボンを履き終えた息子がおもむろに聞いてきた。
「じゃあさ、今みたいにズボンをはいたチンチンは何て言うの?」
なぬ。
チンが隠れている状態。
全部隠れて見えないチン。浅はかな私はノーパンを思い出した。
そこで私は言った「ノーチン。」
スピード重視の私はいつも詰めが甘い。
賢い息子が言った。
「でもチンチンはパンツの下にはあるんだよ。」
私の愚か者。
ノーパンやノーブラはそもそもパンティーやブラジャーがそこに存在しない、つまりチンが無くならない以上ノーチンとは呼べない。
完全に隠されたチン。
完全にカバーされたチン。
フルカバーチン!
自信満々にそう教えた。
息子は納得していないような複雑な表情だったが、それ以上尋ねるくることはなかった。
私自身も全く納得していなかったが、とりあえず「なぜなぜ・どうして」攻撃を鎮圧できたことに安堵していた。
※
子どもたちの就寝後、一杯飲みながら一日の反省をするのが私の日課だ。
私はここ20年くらい日記を毎日書いている。
日記を書きながら今日というかけがえない一日に思いを巡らせるのだ。
今日一番の収穫は、なんといってもチンチンの知識が一つ増えたこと。
そう日記に書き出した。
「チンポコについて理解を深められ、充実・・・」
・・・。
え。
チンポコ?
私は無意識にチンポコと書いた。
この単語もまた、何十年ぶりに再会したものだ。
自分で書き、そしてまた反復される単語。
チンポコ。
チンポコ。
チンポコ。
ちょっと待って。
私にはまだチンチンの入り口程度しか見えていないのかもしれない。
疑問が次々と浮かんでくる。
チンポコって何?
チンはチンチンだとして、ポコって?
あれ?
そういえばチンとポコの入れ替バージョンもあった。
そう、ポコチン。
次々と脳裏に浮かぶさまざまななチン達。
チンボコ。
何なの?ボコって。
ボコボコにされたってこと?
チンボ。
ボって・・・。
毛がボーボーのボ?
私は何かとんでもないことを発見している最中なのかもしれない。
自分の脳で考えるにはすでに限界だった。
パソコンを開きチンチンについて検索をかけた。
するとやたらと奥深い語源説なんかも色々出てきたが・・・でもきっと全てのチン達は幼児語でいいんだろうと勝手に解釈した。
それにしてもチンチンの幼児語の量、異常な程多くはないだろうか?
犬だってワンワンとかワンコくらいなのに。
確かに子どもって生き物は、汚シモな単語を言って喜ぶものだが、人気ナンバーワンのうんこですら2種類くらいだろう。
チンチンだけそんなにあって許されるはずがない!!
チンチンばかり贅沢だろうが!!
ああ、私は嫉妬しているのかもしれない。
チン達に。
止まらない無駄な思考と検索。
息子(フルチン)のせいでムスコのことが頭から離れず、答えなの出ないこの問を夜な夜な考えるはめになった昨晩の苦しみ。
きっと、これを読んでしまった方々も今夜は眠れない夜になることでしょう。
もうすでにチンチンを検索している方もいるかもしれません。
どうかこんな記事に振り回されることなく、素敵な夜をお過ごしください。
そして素敵な週末を♡
(※実際には、昔からある言葉「振」が丸出し状態のことを指しており、振(丸出し)+チン(チンチン)から、ふるちん・ふりちんと呼ばれるようになったそうです。ぶらぶらでは無いようです。多分。)