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[フランス生活]フランスの治安は悪いって本当?
フランスの治安が悪いという話をちらほら目にしますが、イメージするのはスリとか置き引きとかですよね。
実際私自身はスリにあったことや身の危険を感じたことは一度もありません。
彼と出会う前にフランスのあちこちを一人で旅して回ったこともありますが、どこへ行ってものんきにぽけーっと散歩していても平気なもんです。
しかしそれは"平和ボケ"でしかないのだと、頭をガツーンと殴られるような出来事がありました。(※犯罪にあったわけではありません)
それは彼とアムステルダムからフランスへ帰ってきた時のこと。
オランダf1グランプリを3日間楽しんだ帰りで、二人ともクタクタで一刻も早く家に帰り着きたい、、、という状態でした。
着陸後スムーズに空港を出ると、駅へと向かうシャトルバスがちょうど停まっていて、慌てて乗り込んだ。
荷物を置いて、空いている奥の席へと腰を下ろす。
「はあーやっと帰れるね。早く家のベッドで寝たい!」
そう言いながらバスに揺られること20分。駅に着きそそくさと降車した。
「電車までまだ10分くらいあるね。」
彼がそう言い、駅のベーカリーに入ってクロワッサンを二つ購入。
プラットフォームで電車を待ちながら幸せの味を頬張る。
久しぶりのクロワッサンに二人してフランスに帰ってきた喜びを噛み締めていた。
ちょうど食べ終えた頃に電車が見えてきた。
ああもうすぐお家だ、そう思った時。
彼がはっと声を上げた。
「マイラブ?僕のスーツケースどこいった?」
え?
あれ?
あ!!
3秒ほど固まった思考を叩き起こす。
そうだ、スーツケース。持ってない。
どこ行った???
あ、ベーカリー!!!!
私がそう思ったのと彼が階段を駆け上がったのが同時。
ベーカリーに置き忘れたんだ、階段上がってすぐそこだからすぐ戻ってくるはず。
そう思い待つこと数分。
戻ってこねえ。
何かおかしい、と思い階段を駆け上がり彼の姿を見つけたのと、あ、、、!と真相に辿り着いたのが同時。
バスだ。
バスに置き忘れたんだ。
乗車時に運転席の後ろにある荷物置き場にスーツケースを置き、最後尾の座席に座り、そしてその真横にあるドアから降車したため、スーツケースをすっかり忘れてしまったのだ。
あーやっちゃったー、、と事の大事さをよく分かっていない私と、すでにどこかに電話を掛けている彼。
電話をかけながら、"電車に乗って帰れ"と私に合図する。
いやさすがにこんな状況で彼一人置いては帰れないでしょう、、
私が力になれるとは思わないけども。
空港に電話を掛けたものの誰も出なかったようで、彼はイライラを隠しもせずよく分からんフランス語で悪態をつく。
連絡つかないんだしもう一旦帰って翌日に荷物を取りに来るよう手配したらいいのでは、、と思うも、気が焦りイライラした様子の彼には言えず。
再度どこかに電話を掛け、どうやら今回は誰かに繋がったようで、事情を説明しどこに取りに行けばいいか等話している模様。。
早口のフランス語を必死に聞き取ろうとしていると、「〇〇がどこか調べて」と言うのでスマホでマップを開いて彼に見せると、電話を切りマップを確認しながら、私の手を引いて早足で歩き出した。
その場所は私たちがいた所から歩いて15分ほどの距離。ただのバス停のようである。
てっきりスーツケースはバス会社の事務所か、バスに乗ったままかと思っていた私はいまいち状況が掴めず困惑していると、
「マイラブ、急いで。10分しかない。10分過ぎたらスーツケースが爆破される」
と言う彼。
冗談かと思い、はあ?と笑うと
「これマジだから。走るよ」
そう言い私を置いて走り出した。
私はサンダルのためそんなに早く走れず、というか"爆破される"なんて冗談だと思っていた私は後半は諦めて彼の姿を見失ってしまった。
マップを頼りにせかせかと早足で向かい、ようやくそのバス停付近に辿り着くと、なんだか様子がおかしいことに気がつく。
警察が数人いて、道路が封鎖されている。
通りがかりの車や通行人たちは足止めをくらっているようである。
え、なにこれ、、
これが私たちのスーツケースを積んだバスが原因なのであると気付くのに数分かかった。
道路を封鎖しているテープの先にはバスが一台と警察のバンが停まっていて、辺りに姿が見当たらなかった彼はそこにいるのだと気がついた。
どうすることもできず立ちすくみ、彼の姿が見えるのを待っていると、彼と警察官がこちらに歩いてくるのが見えた。
「あんずのバッグに入ってる僕のパスポートとフライトチケット出して」
と言う彼は落ち着いた様子で、少し安心する。
警察官がパスポートとチケットを確認すると彼らは再びバンへと戻っていく。
彼が振り返って「大丈夫だから。ここで待ってて」と言い残して行った。
やきもきしながら待つこと15分ほど(体感的には2時間くらい)、彼がスーツケースを引きながら歩いてきた。
それと同時に辺りの警察官が道路を封鎖していたテープを取り除き、足止めされていた歩行者や車が動き出す。
警察官たちに再度謝罪とお礼を言って、私の背中を早く歩けと言わんばかりに押す彼。
「危なかった、、あと少し遅れてたら爆破されるところだったよ」
いやそれ冗談なのか本気なのか分からない、、
と未だ困惑した顔の私に彼は真顔で言う。
「バスに乗客がいないのにスーツケースが残ってたから、爆弾か何かの危険物かと思って警察が来てたんだよ。それでスーツケースを爆破するために道路を封鎖してたんだ。」
いやいやいや、、、
荷物忘れちゃうことぐらい誰にでもあるじゃない?
しかも私たちが降車してからスーツケース忘れたのに気づいて電話かけるまで15分くらいだよ?
爆破ってあなた、なんて大袈裟な、、、
と驚く私に、
「フランスでは当たり前のことだよ。テロに警戒してるんだ。荷物を忘れた僕たちが悪い。」
そう言って彼はあきれた笑顔を見せる。
「とにもかくにも早くこの街を出なきゃ。このバスずっとここに停まってたんだ。僕らのせいで色んな人が足止めくらって、、迷惑かけちゃった。」
普段は自分の非を簡単に認めないうちのフランス人も、今回ばかりは反省しているようでした。
ちなみに警察には特に怒られたわけではないようで、厳しい処罰は何もありませんでした。
ただ、バスを足止めしたのでバス会社から罰金の支払いの通知が後日届くかも、ということでした。
気づいてすぐに連絡を取ったのが良かったみたい。
"とりあえず帰って明日取りに来たらいいじゃん"
なんて考えていた能天気な私一人ならとっくにスーツケースは爆破されていたことでしょう、、。
この出来事は私には衝撃的で、フランスの治安への体勢というか、その警戒心に感銘を受けた。
日本で生まれ育った私にはこの警戒心は備わっていない。
”テロ”という言葉こそ知っていても、ピンとこないというか現実的ではなく、実際に世界で戦争が起きているといっても、自分の世界は平和で安全であると、心のどこかで思い込んでいる。
”平和ボケ”という言葉、日本にいた時も耳にしたことはあったけれども、これだけ認識の差が激しいという自覚はなかった。
そしてそれがどれだけ恵まれたことであるか、平和ボケできるほど安全な国でぬくぬくと生きてきたことを、私は知らなかった。
そんなぽけーっと生きてる私に対しうちのフランス人は、「この道は一人で通ったらダメだよ」と言ってきたり、護身術を教えてきたりと、警戒心を身に付けさせようとすることもあります。
なんでもうちのフランス人曰く、「フランスはどんどん治安が悪くなってる」とのことで、昔はこんなじゃなかった、とよく嘆いています。年寄りみたいね。
確かに、通りには物乞いをしている人も多く、一人でいる時に話しかけられるとギョッとする。
うちのフランス人には、「ビビってると思われないように。でも怒らせないように、丁寧に断るんだよ」と言われましたが、本当は走って逃げたい。
そしてよく目にするのがデモ。
フランスって本当にデモやストライキが多いですよね。
政治や戦争、労働者の訴えなど様々な理由でデモが起こるようですが、要は自分たちの権利を主張しているわけで、”自由、平等、博愛”を標語として掲げるフランスらしい姿なのだろう。
自分たちの権利を声を上げて主張するというのは尊敬するフランスの文化であるが、暴徒化するデモはいかがなものかと思う。
通りの店のガラスを割ったり、火を起こしたり。そのため窓ガラスに防御するための板を取り付けているショップや銀行等の建物も多くある。
それでも、フランス人たちの 社会情勢に心を砕き、政治に意見し、人権のために戦うという姿勢には目を見張るものがある。
ことなかれ主義で生きてきた私とは正反対だ。
そう言うと、うちのフランス人は自慢げな顔をして、
「フランスは革命の国だから」
と言う。
「僕たちの先祖は命を懸けて自分たちの権利を勝ち取った。だから今でも、市民である自分たちが政治に意見を出したり、自分の本来持つべき権利を主張するのは当然のことだよ。それは僕らの権利であり責任なんだ」
フランスの文句を言うことも多いうちのフランス人ですが、こうやってフランスの歴史を話すときはとても誇らしげです。
終わりに
私もフランスの歴史にはもちろん感服しますが、ここまで"平和"を具現化した日本もやっぱり素晴らしいと思うのです。
ただ、平和な日常が続くという幻想を抱いているのは事実であり、自分の無関心さにショックを受けることも度々あります。
平和ボケ、英語では"Peace-blindness"などと表現されますが、まさに平和による盲目という状態を指します。
平和な環境で生きることは決して悪いことでは無く、ただそれを当たり前にせず目をかっぴらいておかねばなあと、思った出来事でした。
ちなみにうちのフランス人が日本を訪れた時は、日本の治安の良さ、どこまでも平和な空気にショックを受けていました。
「もし財布落としても絶対戻ってくるでしょ」
なんて言っていましたが、それは運の良し悪しかもしれん、、、