嗤う花vol.3 植物は「ありのままの自分を愛して」とは言わない
ミズバショウの花は地味なOLに似ている。
じめじめした湿地に住み、1本の棒の形をした花に、白くて葉が変化したものが1枚ついているだけ。
地味なOLがすれ違いざま、セクシーな香りの香水をつけているのに気づくとドキリとする。
ミズバショウの狙いはハエだ。ハエは匂いフェチなのだ。ミズバショウは、ハエが大好きな肉の腐った匂いでハエをおびき寄せる。
ミズバショウは座禅草という和名を持つ。苞で包まれた花は、お坊さんがお堂の中で座禅を組んでいるように見えるからだ。
「君の部屋ってなんか落ち着くんだよね」
「あなたがいつ来てもいいように暖めておいたの」
ミズバショウはお堂のような形で外気を遮断し、自らの発熱システムで、ハエが動きやすいように花の中の温度を上げている。こうしてミズバショウは、地味な容姿ながら、相手にくつろぎと安らぎを提供している。
環境や容姿に恵まれなくても、植物はそれを嘆いたりしない。料理の腕で胃袋をつかむ、巧みな話術で相手を飽きさせない、床上手でとりこにする。自分の長所を最大限に発揮して、狙った相手を落とそうとする。とりたてて長所がなくても、なんとかして長所をつくるよう戦略を練り自分を変える。
シンデレラだってドレスを縫い馬車をチャーターし、呼ばれてもいない舞踏会に押しかけるという実行力とフットワークがあったから、王子を射止めることができたのだ。
植物は「ありのままの自分を愛して」とは言わない。冷静な自己分析と、前向きな自己改革。自分を変える努力を欠かさない。