嗤う花vol.2 植物は結婚対象外の男を早めに切る
ハナバチは、マメなモテ男だ。花の間を精力的に飛び回る。そしてハチの巣に持ち帰るため、たくさんの蜜を吸い花粉を運ぶ。頭が良いハナバチは、義理がたく同じ種類の花を選んで飛ぶ。受粉するには最良のパートナーだ。
モテ男をめぐる競争は熾烈だ。アヤメやパンジーは、ハナバチが好む紫色のドレスで着飾り、CAや女子アナのように知性、美貌、スタイルの良さを総動員しアピールする。一方で恋愛対象外の虫に蜜を吸わせないようなしかけもおこたらない。
「はじめまして、おれ、ハエなんすけど」
「・・・」
「きみっていい体してる。でもすごく複雑で、蜜がどこにあるかわかんないよ」
「あなたのこと、いい人だとは思うわ。でも恋愛対象にはならないの」
花の構造が理解できない虫は、あきらめてすごすごと去っていく。花はこうして虫の頭脳を試している。受粉まで確実に行き着く信頼できる相手かどうかを、体のしくみを使って効率良く選別しているのだ。
レンゲなどのマメ科の植物は、花びらが上下に分かれている。下側の花びらを押し下げると、花びらの中から隠れていた雄しべと雌しべがあらわれる構造だ。外から見ただけでは、蜜のありかはわからない。
こうして、蜜を得るしくみを理解でき、自分の体重で花びらを押し下げる腕力を持つハナバチだけが、蜜にありつける。マッチョなモテ男と策略家の美女のセレブ婚。高級な「レンゲはちみつ」は、花と虫とのこんな駆け引きによってでき上がっている。
花の婚活期は限られている。結婚しそうもない男とダラダラと付き合ったり、たまに部屋に転がり込んでくるくされ縁の男に、ご飯を食べさせてあげている暇はない。
男を引き寄せる術も重要だが、ダメンズを切ることも同じくらい大切だ。