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#1 夜職大学3年生の場合

その夜、会社から帰宅した私は資格勉強に追われていた。
久々の勉強にやる気が起きなくて一緒に勉強してくれる人を探そうと
通話アプリを入れた。

「レポートおわんない」みたいな呟きをしていた大学3年生が目についた。
一緒に勉強しましょうと通話をかけると、何回か会話のキャッチボールをして
ほとんど喋ることもなくその日は無事に勉強終了。
彼は勉強中にSNSを見て笑ったりしてて「やる気あんの?」って何度か思ったし、アプリ内のアイコンもまさかの自撮りで社会人の私から見たらなんだか若いな〜って印象。でも一緒に勉強してくれるのはありがたかった。

資格試験まで期日がない私と、単位ギリギリの彼はこの日から頻繁に一緒に勉強するようになっていく。

数回一緒に勉強した頃だろうか。
もうこの頃には彼がどんな学部でどこに住んでいるのかも知っていたし、
私がどこでどんな仕事をしているのかも彼には話していた。

勉強の途中で私が眠くなり、
「お風呂入るね、切る?お風呂出たらまた勉強するかもだけど」というと
「んーん」彼が一言だけ答える。
私は意味がわからず、「え?切らないってこと?」と聞き返すと
「切らない、俺一人じゃ何もできないから」と彼は答えた。
「あ、じゃあ寝落ちとかする人?」と聞くと、「うん」とだけ言っていた。
このやりとりの後から寝落ちが当たり前になっていった。

正直、通話界隈で寝落ちというのは仲良くなれば普通のことだ。
私も過去に何人か寝落ち相手がいたことがあるが、
相手が「好き」「かわいい」と言うたびにそう言うつもりじゃなかったのに、、、
なんか重いな、めんどくさいな、と感じてしまい、寝落ちをした相手と長く続くことはなかった。

その分私は勉強以上に何かを求めてこない彼に好感を持っていた。
そんな彼に都合よく都合いいタイミングで頼れるのが美味しかった。
誰かいてくれれば誰でもいいタイプ。その方が都合が良かった。
小学校もかぶらないほど歳の離れた男の子に情を持ってもいいことがないし
そもそもこんなアプリであった人にいい子はいないと思っていた。
だから正直寝落ち相手になりたくなかった。終わるのが怖いから。

でも彼は違った。
元メンズコンカフェの店員で、現職はガールズバーのボーイ。
女の子の扱いは慣れてる。
「俺年上が好きなんだよね」「仕事頑張ってるのほんと偉いし尊敬する」
「そういうところかわいいよね」とは言うけど
「好き」とか「これからも寝落ちしてほしい」「会いたい」とは絶対に言わない。
私が「そういう男は嫌い」「寝落ちして続いたことがない」と言ったからかもしれないけど、ちょうどいい距離感を保ってくれるのは本当にありがたかった。

彼は自撮りを送ってくるけど、顔を見せてくれとは言わないし、
住んでる場所も遠いから絶対に会うことはない。
「今日から3日間旅行で話せない」と言うとわかったと何事もなかったように3日は連絡を取らないし、3日後に「おかえり」とだけLINEが来ていつも通り寝落ちの毎日がはじまる。

そんなこんなでもう彼とは2ヶ月通話友達をしている。

普通寝落ちを誘ってくるような人は、
寂しがりで何日も開けると「他に男できた?」とか
他の女の子と仲良くなって通話してくれないとかよくあるのに
彼はなんで顔も知らない私とこんなに長く会話してくれるんだろう。
考えてもわからないけど、私はこの毎日が気持ちよくて都合よくてやめられない。


いつか私に彼氏ができるまで、楽しませてよね。
君との未来はきっとないけど、今は君のことが少しだけ気になるから
もう少しだけそばにいさせてね。




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