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【特別展】昆虫 MANIAC
2024年9月20日
科博の恒例、夏のお子様向け特別展。昨年は海。今年は虫。
「昆虫」と銘打っているが、クモ類を含んだ節足動物全体的に満遍なく特集されていた。
特に今回は予告の画像からして、かなりの子供向け、主催にフジが絡んでいるということから期待値はそこそこ。端正な展示で見れればいいかな。と思っていたが、杞憂に終わる。
きちんと主催に並んでいた国立科学博物館が音頭を取っていたようで圧倒的な標本物量と各専門ごとに並び立てられた展示が見易い上に旨く絞られていて良い展示であった。
まず昆虫と言ってはいるが、紹介されるのは昆虫だけではない。が、まずは昆虫のあらましから。というところで序盤の展示は陸生の脊椎動物と昆虫の差異から丁寧に紹介。中学校の理科の分野での内容を事細かに記載。かなり緩めなタッチのイラストと共に紹介されていた。そのためここいらで「今回の展示こんな感じかよ~」と不満が湧き上がる。が全くの的はずれな見解であった。
その序盤の昆虫類の紹介から、クモ類をふくめた“虫”という定義を固めて、ヘッダー画像のマニアックな研究者たちの立ち絵の紹介。
こっからが本番である。まさに「MANIAC」なところの紹介が各研究員ごとに紹介されていく。
ざっと大きく分けて、トンボ・ハチ・チョウ・クモ・カブトムシと5つの扉と称されたゾーン毎に区切って紹介されている。
それぞれ研究者が渾身の力を持って各々の類での「ここが変だよ・マニアックだよ」を持ち寄った展示ではあるものの、各類がいつ頃分化して繁栄していったか、主にどのような生活環送っていくかを端的に紹介、また他の生物種とどのように関わり合い生きているかも紹介し、基本から展開までをスムースに展示していた。
トンボ類の扉からは、トンボだけでなく、セミ、バッタ、カマキリなどが紹介されていた。
ここでびっくりしたことといえば、トンボ類の翅の翅脈については一つ一つ名前が着いていて、さらに言えば翅脈の広がり方を見ると専門の研究者はだいたい種類を類推することができるって言うことだった。
もちろんセミの翅脈にも名前があるそうで、この虫類の翅脈の広がり方って個体ごとのランダム(種ごとの傾向がある程度)かと思っていたので意外であった。
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そして古生物好きでは有名な古代の大型トンボと称される「メガネウラ」だが実はその翅脈の特徴的に専門家の間ではトンボ類トして扱われないということもびっくりだった。
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またバッタの蝗害なども紹介され人間社会とどのようにつながっているかを端的に示していた。
そしてセミ類では今年逃すことの出来ないイベントとして、13年ゼミと17年ゼミの同時出現という大イベントが5月にあったものを早急にレポートして紹介されていた。
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素数ゼミの大量発生は221年に一度のことと言うことでだいぶ多くの研究者が現場に当たっていたようで。結構なスペースを持って紹介されていた。
鳴き声体験ブースまで用意しちゃってまぁ。
とはいえ研究者にとっては垂涎のタイミングなのでしょうがない。
…というかこれにぶつけるために昆虫展を企画したのか?という邪推も捗る。
続いてはハチの扉と称したハチ目のゾーンへ。
このハチという種類で印象的だったのが、通常イメージする真社会性昆虫としてのハチではなく、あまりにも種類が多すぎで、何もかも収拾がついていないハチを紹介するという点に苦心しているところが見て取れる紹介であった。
まず刺すハチ、刺さないハチ、そしてハチとハエ(アブ)の違いなど、寄生するハチ、しないハチなどなど、繁栄したがゆえに様々な生活環をもつ動物として紹介されていた。
一番力を入れてるな、と感じたのは寄生バチの紹介であった。
ハチ、他人の幼虫に対してかなりえげつない。イモムシの体に卵を産み付け、子どもはその肉を食って育つ。あるいは他人の卵に自分の卵を産み付け、その卵を栄養として育つなど、捕食寄生という形の寄生をしている。
そしてその能力を手に入れた時代なども微細に紹介されていて、代々続く進化の形としては完璧なんだなぁ~と思ってしまった。
寄生主操作の話なんか虫→虫の関係でこれやるんか……と思ってしまった。
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だれがここまでやれって言ったw
次はチョウのゾーン。チョウといいつつ、チョウはガから分化した生き物ですので種類的にはかなりの数をガが占める。とはいえ昼間に進出したチョウのほうが太陽光を利用するため派手な種類が多いのも事実。
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そしてチョウ類の特徴といえば、イモムシから蛹を介して成虫となる点。
イモムシの写真展示がとてつもない量展示されていたがこれ、芋活.comってあって、とてつもない変態……、いえマニアックなサイトからの紹介であった。
これらイモムシ・毛虫の展示量は半端ない。みているだけで大小、カラフルで標本をみている分にはとてもかわいい。
イモムシの姿、成虫の姿と並べて展示できるのはやはり科博の物量故か。
またチョウ類で紹介されていたものとして、高山性のチョウ類の差異であった。高山植物と共に繁栄し、独自の生活をしているものとして挙げられていた。
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続いてクモ類だが、クモ類はほか昆虫類と比較して翅がないということから地上性がかなり強く地域毎に特徴的に進化したものがそれぞれ紹介されていた。
特に面白い展示だったのがグラバーヤチグモの展示だった。
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長崎出島の貿易を端緒に、その貿易船の積み荷が中国大陸からやってきて、それに付着した本種がこのグラバー邸の中の洞窟にのみ細々と生きている。というエピソードを持つヤチグモである。400年も洞窟の中でひっそりと日本の歴史を踏んでいる生き物というのも面白い。
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またクモ類だけでなく多足類、サソリやウデムシなどの昆虫とは相違のある節足動物も紹介されていた。
そして最後はカブトムシの扉である。
カブトムシとは題されているが、この甲虫と言われる虫はまだまだ解明されていない種などもおおく、それらをごった煮にした状態で展示されていた。
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甲虫類は今まで紹介された虫たちの中でも一番地球上に多く繁栄している種類であるそう。その中でやはり展示として、視覚的に強い構造色を持つ者たちが多く展示されていた。
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また足の作りを電子顕微鏡で見せてどの虫がどのような構造を持って壁に吸い付く足を持っているかなども紹介されていた。
そのゾウムシがちゃんと展示室内に居るのもなかなか珍しい出来事で面白かった。
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うんこ虫としてオオセンチコガネ、センチコガネがたっぷりと紹介されていたのには笑ってしまった。
甘美な響きよ“ウンコ”。夏休みの小学生に向ける最高の単語だとは思いませんか。
とふざけた感想を持っていたのがけれども、絵本作家の舘野 鴻さんが独自にオオセンチコガネを飼育、繁殖、観察した結果を発表された著書「うんこ虫を追え」の紹介に合わせてキャプションが作成されていた。
わりとガチでした。
舘野鴻さんが実践したオオセンチコガネの飼育法や、それらを研究した内容が事細かに報告されていて見ごたえはたっぷり。
侮れないウンコ虫。
そしてここにも先程のゾウムシを同様にオオセンチコガネ、センチコガネの生態が展示されていて、気合の入れ方が1段階違うわ。となった。
もちろん餌はウンコで、上野動物園からエゾシカの糞をいただいているとのこと。SDG'sですね!
ここまででこの昆虫展のおおかたの展示は終盤へ入るけど終盤は、都会のムシとして観覧者から寄せられたムシなどを紹介するゾーンへ。
昨今減ったと言われるムシたちが都会の中でどうやって生きているかを紹介、また目を凝らせば虫達はきみの近くに居るぞ!という研究者からの熱いメッセージなんだろうな。と。
ツイッターとリツイートと名がついたムシはSNS社会の特徴的なものとして、またアンガールズ山根さんが番組の企画中に見つけたムシが実は新種だった。などこれらについても現代のムシのあり方なんだろうな。と思わせる展示も有った。
最後第二会場では各々のトンボ・ハチ・チョウ・クモ・コウチュウの専門の研究者からのこれからの研究者にむける一言の展示が有ったのだが、インタビュー内容として最低のものが有って、「あぁ、だいぶ頑張ってる展示だったけどやっぱこれしっかりフジが関わってる展示だわ」と納得してしまって最後にケチが付いたのは笑ってしまう。
全体通して膨大な種類を持つムシをいかにセクションに分けてわかりやすくとっつきやすくが徹底された展示で非常に面白かった。
科博の標本の威力も遺憾なく発揮され、同種や近縁の種を並び立てる標本の並べ方は絶品。
夏休みにふさわしいムシの展示だった。
以上。
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