5.突然の退職、そして別れの危機
「そういえば会社辞めちゃった!福岡で、すごいやりたい仕事があって、雇ってもらえることになってね。来年から福岡で暮らすよ」
辞めた!?
突然すぎて、私はパニック!
でも、逆にちょっと冷静になって色々話を聞いてみることにした。
すると、ゴウキさん、実は私と付き合う前からずっと仕事のことで悩んでいたそうだ。
大分出身のゴウキさん。山口県の水産大学を卒業し、本当は船乗りになりたかったんだそう。でも、船酔いがひどすぎて、その夢は叶わなかった。しかし、大学で勉強する中で、「鑑定人」といって、船で運ぶ貨物に関わる、陸で働く仕事があることを知り、その仕事について10数年ほど、キャリアを積んで来たそうだ。
100年以上も歴史のある会社で、ゴウキさんは18年ぶりの新卒で入社した。周りはおじいちゃんたちばかり。仕事のやり方もアナログで、全てが手作業だったそう。
そんな中、ゴウキさんはパソコンを用いてあらゆる作業の効率化を計ったり、海外の最新機器を導入して、今まで数十人で何週間もかかっていたような仕事を、一人で15分で終わるように改善させたり、色々なアイデアで新規事業を立ち上げて何十億もの利益を出すようなプロジェクトにしてしまったり。なんだか私には想像もつかないような、すごい仕事をしていたようだ。
その功績が認められて、千葉で分析所を立ち上げる新規事業を任されたそう。
分析所というのは、持ち込まれた物質にどんな成分が含まれているかを調べる仕組みのことで、今までは外注していたらしいのだが、それを内製化したらコストカットできるということで、何もノウハウがない中、とりあえずそういう仕組みを立ち上げて欲しいというオーダーだったそうだ。
本当なら、分析には色々な機械が必要で、それぞれ作業がバラバラに存在する。Aさんが担当するA工程が終わったら、Bさんの担当するB工程へすすむ。といったように、各作業を色々な人が分担して、分析結果を調べていくような、そういった組織のようなものを採用含め、オーダーされたんだと思う。
しかしゴウキさんは、それを受けて、色々な種類の機械を組み合わせて連結させ、調べたい物質を入り口にポイっと入れたら、8時間後に全ての結果が紙に印刷されて出てきてしまうという仕組みをたった一人で作ってしまったそうだ。
それはどういうことかというと、朝、郵送などで受け取った調査物質を機械にいれたら、8時間ずっと暇で、夕方頃に出力された結果の紙を、顔も知らない外国の人にメールで送り、仕事が終了。という事だ。毎日がこの繰り返し。
分析所をつくりあげるまでは、とても楽しい仕事だったが、いざ作ってしまったら、毎日やる事がなくなってしまい、誰と話すこともなく、暇すぎる8時間を過ごす日常に辟易してしまっていたそう。
(ここまで話を聞いて、なんだこの人は。変な人を通り越して、天才だと、私は確信した。そして、私からのLINEヘの返信の速さも、仕事がずっと暇だったからなのかと理解した)
千葉での仕事は、もうつまらないので、他へ異動させて欲しいとお願いしたそうなのだが、古い会社では玉突き人事しか認められず、いち社員の希望では、異動は無理だと言われてしまったそうだ。(今でこそ、副業という考えがあって、そんなに暇ならその時間で何か新しいことをやってもいいのではと思うけれど、当時のゴウキさんは会社員としての働き方しか頭になかった)
いきなり大分から来た若者が、新規事業を任されているということで、周りからの風当たりも強かったようで、色々な要素が重なって、ゴウキさんは仕事について一人の時は体調が悪くなるほど、かなり悩んでいたらしい。
まだ付き合いたての私には、そんな辛い様子は一ミリも見せてはくれなかった。そして、どうにかこうにか、新しい世界への道を探していたそうだ。
そんな中、知人の紹介で知り合った人が、九州で新しいお店を作るので、その店舗プロデュースを任せたいという話がゴウキさんに来たらしい。
今まで、店舗プロデュースなんてしたことがなかったが、自分のセンスを買ってくれているようなので、挑戦したいと思ったとのこと。ゴウキさんは当時、クリエイティブな仕事に憧れていた。
5ヶ月間。こんなに一緒にいたのに、悩んでいたことや新しい道を探していたことを知らなかった。私は、ただただ、ゴウキさんとの楽しい時間を過ごすことに夢中になっていたんだと、自分勝手な性格を悔やんだ。
でも、それと同時に、ゴウキさんが決めたことなので、応援したいと思った。しかし、30歳を目前に遠距離恋愛をすることに、私は不安を覚えた。
(結婚とか、考えているのだろうか。)
私は、素直にゴウキさんに疑問をぶつけた。
「ゴウキさん、結婚とか考えてる???」
すると、ゴウキさんの返事はこうだった。
「え!結婚とか、全く考えてなかった!」
!!!!!!!
絶句。
今まで話していた「結婚式、和装がいい?洋装がいい?」の話はなんだったのか。もう、気になることは全て質問した。
すると、その話は「自分ごと」の話ではなく、「例えば」の話だったと言われた。
「自分が芸能人だったら、どんなドラマに出たい?」そんな風なありえない例え話をするような感覚で、「(自分は結婚とか全く考えてないけど、世間一般ではする結婚について考えて見た時)和装がいい?洋装がいい?」そんな感覚の会話だったそう。(まじですか笑)
でも、悪気もなく、まっすぐな目でそんなことを言われたものだから、ああ、この人は本当にそう思っているんだと、責める気にはなれなかった。
「8000万円の○○っていうクラシックカーと7000万円の〇〇っていうスポーツカー、どっちに乗りたい?って聞かれて、いや買えないけど、クラシックカーがいい。そんな会話をしている感覚だったんだよなぁ。」
まだ例えるか、と思うほど、当時の気持ちの説明をされたので、私には信じがたい思考回路だったが、それはもう受け入れるしかなかった。
そこから、ゴウキさんの結婚観について初めて聞くことができた。
「周りの友人も、離婚してたり、結婚は地獄だとか、奥さんの悪口とか、嫌な話ばかりを聞いていたから、結婚に対してはまったく良いイメージががなかった。それに自分は変わっているから、結婚できるなんて一ミリも思っていなかったし、桃も結婚したい人だとは思っていなかった。Pairsも、結婚相手というよりは、全く知らない土地にきて、会社でも話す人がいなくって、切実に友達が欲しかった。付き合えたら、ラッキーくらいの気持ちだった。」
(確かに、切実に友達が欲しい!って書いてあったけどw)
「いやいや、でも私、初めてデートした日に、次付き合った人とは結婚したいと思っていると伝えたよ?」
「そうだっけ?」
そう言われて、私は絶望した。
そのセリフを言うゴウキさんは、全く嘘のない綺麗な目をしていた。私を騙そうとか、そう言う気持ちではなく、単純にゴウキさんの辞書に「結婚」と言う文字がないんだ。そう感じた。逆に辛い。お先前真っ暗とはこの事。
クリスマス直後の出来事にしては悲しすぎる。
インスタに一度あげた、楽しかったクリスマスプレゼント交換の写真を、私は思わず消してしまった。
数時間前まではこんなに浮かれていたのに、、、
ああ、私の婚活は、また振り出しにもどるのか。。。そう思った。
ただ、せめてもの救いは、ゴウキさんに別れる気はないということだった。
結婚は考えてないけど、遠距離で付き合ばいいでしょう。
そんな感じだった。
私は、恋愛至上主義で側に恋人がいて、24時間365日、なんでも一緒にやりたい人で、この5ヶ月それに付き合ってくれていたゴウキさんも、同じような人なのだと思っていたら、別にそういうわけではなく、「かなり柔軟な性格」というだけで、相手の希望によって生活スタイルはどうにでもなる人だった。
恋人が、「たくさん会いたい」といえば会うし、「月に一度でいい」といわれれば、それでも大丈夫な人だった。
そして、人生に目標がみつかれば、それに突き進んでいく。恋人が常に一番重要というわけではなかったと、この時初めて知るのである。
1ヶ月の研修へ
新しい仕事は、来年の2月から本採用とのことで、1/25に引越しをすることが決まった。
私の思いとは裏腹に、ゴウキさんは、どんどん新しい世界へといく準備が整っていく。
そして、本採用までの約1ヶ月、とりあえず試験的にお店の仕事を手伝うことになったらしい。
「明日から1ヶ月、福岡に行ってくるね。それで引越しの日に戻ってくる」
そう言われた。
いよいよ、ゴウキさんが遠くに行ってしまう。
見送る日の夜、私は泣きながら自分の結婚観について話した。
「ゴウキさんは、友人の話から結婚にネガティブなイメージがあるようだけど、私は違う。私は結婚にものすごい憧れと理想がある。私の両親は、台所に一緒に立って毎日ご飯を作ったり、夜は飲みにいかず、毎日家族で晩御飯を食べていた。ちょっとそこまでの買い物も、一緒に行くし、掃除も洗濯も、いつも一緒にやっていて、その姿を見ていて、私もそんな風な結婚生活がしたいとずっと思っていた。あわよくば、おしゃれな家具とかに囲まれて暮らしたくって、ゴウキさんとならそれが全部叶うと思っていた。だから、私はゴウキさんと結婚したいとずっと思っていた。」
そう、心の丈を全てぶつけた。色々な思いが溢れて涙が止まらなかった。
ゴウキさんがその時、どんな風に私の話を聞いてくれていたか、私は確認できていない。怖くて、あんまり顔が見れなかった。ずっと天井を見ながら話していたと思う。
そして最後に、こう伝えた。
「1ヶ月後の引越しの日に、ゴウキさんの気持ちを聞かせて欲しい。私の結婚観を聞いて、それでも結婚する気になれなかったら、私は結婚がしたいので、別れる。でも、少しでも気が変わって、結婚したいと思えたら、婚約をして欲しい。婚約をしてくれたら、遠距離恋愛もできるし、私が福岡で仕事を見つけて一緒に暮らすことも考えられる」
ゴウキさんは「わかった」と言って、次の日、福岡へ旅立った。
これから先の未来を、ただただ悶々と過ごすのは嫌だった。うやむやにしないで、前に進むために自分でした提案だけど、引越しまでの1ヶ月間は生きた心地がしなかった。
「もしかしたら、ゴウキさんの気が変わるかもしれない。」そう期待する日もあれば、「このまま別れて、今までの時間は夢として終わってしまうんだ」そう思って泣きながら寝る日もあった。
日々、精神不安定な状態だったと思う。色々な人に話を聞いてもらったが、何を言われても、結論、私にはゴウキさんの答えを待つしか出来なかった。
ちなみに、年越しは大学の友人達と一緒に過ごした。
毎年、その友人達とは、今年の目標を書き初めしていたのだが、この時、私は半分別れる覚悟も決めていて、こんな事を書いていた。
こんな事で、めげてちゃダメだ。
「私はぜったい結婚して幸せになるんだ。」この書き初めは、そんな強い意志の現れだったと思う。
次は、ドキドキの引越し編です。ゴウキさんの返答はいかに!?
ちなみに、2015年の目標はあと5つあった。4年たって見てみると。うん。なんとなく叶ってないけど、叶っているような気もする。
でもこの頃の私は、今のような未来を、これっぽっちも予想出来ていなかったのは確かだ。
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