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子どもを守らない国に未来はない〜子ども脱被ばく裁判不当判決〜

 国や県の被ばく対策の違法性を問う、通称「子ども脱被ばく裁判」の判決が3月1日、福島地裁で言い渡され、遠藤東路裁判長は「子どもを被ばくから守りたい」という原告らの訴えを全面的に退けた。
 法廷で裁判長は、その詳しい理由すら述べず、早口で判決文を読み上げると、そそくさと法廷を後にした。異例の判決だった。

 改めて説明しておくと、この裁判は、住民の被ばく防護対策を怠ったとして国や県の責任を問う「親子裁判」(慰謝料ひとり10万円。原告は、当時福島県内に住む親子158人)と、「被ばくリスクの低い安全な地域で教育を実施すること」などを市町村に求めた「子ども人権裁判」(原告は子ども14人)のふたつからなっている。

◆いまだに汚染されている子どもの学校周辺環境

 判決前日に行われた記者説明会で井戸謙一弁護団長は、裁判で明らかにしてきた事実を以下のように説明した。
 まず、子ども原告ら14人が通う福島県内の中学校周辺の汚染状況だ。下記の表を見ると、いまだ高い汚染が続いていることがわかる。

「2020年4月〜5月の調査では、空間線量こそ法令で定められている一般人の被ばく限度年間1ミリシーベルトを下回るところも出てきているが、土壌汚染は依然として高い。立入を制限される放射線管理区域の基準は4万ベクレル/㎏ですが、10校中8校が、この基準を大きく超えています。いちばん高い場所で57万7千ベクレル/㎏もあります」(井戸弁護士)

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 ◆隠されたSPEEDI、配られなかった安定ヨウ素剤

 原告らは、事故当初、こうした高い汚染があることを国や県から知らされていなかった。情報を隠蔽されていたからだ。井戸弁護士は、こう続ける。

「国や福島県は、災害対策基本法などに基づいて公開することになっていたSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)の情報を入手していたのに県民に伝えなかった。そのせいで、線量が高いときに子連れで給水の列に何時間も並んだり、放射能が流れる方向に逃げてしまったりして、『子どもに無用な被ばくをさせてしまった』と今でも自分を責めている親たちが多くいるのです」

 航空機モニタリングの結果が公表されたのも遅かった。そればかりか国は、年間被ばく20ミリシーベルトという20倍もの被ばく量を、子どもにまで適応したのだ。

「被ばくによる甲状腺がんを防ぐために服用するはずだった安定ヨウ素剤も配られず、地元の福島県立医科大学の関係者だけ飲んでいたこともわかっています」(井戸弁護士)

◆隠されたSPEEDI、配られなかった安定ヨウ素剤

 福島県で増加している小児甲状腺がんの放射線の影響についても争点となった。
 福島県では、原発事故時18歳以下だった子どもたち約37万人に対し、甲状腺検査が実施されている。
 現在までで甲状腺がん(悪性疑い含む)の子どもは252人。本来、子どもの甲状腺がんは100万人に一人程度と言われているので、かなり多い。 

「検査することで、将来にわたって悪さをしないがんを見つけている〝過剰診断〟だ、という学者もいます。しかし、福島県立医科大学で甲状腺の検査・手術を行っている鈴木眞一氏が被告側の証人として立ち、『手術のガイドラインに沿って必要な手術をしている』と証言しました。つまり、手術は必要だった、と。
 しかし一方で鈴木氏は、被ばくの影響は否定しました。被ばくの影響でないとすれば、全国に手術が必要な甲状腺がんの子どもが、約1万2千人以上も存在するという計算になります。これは非常に矛盾した証言です」

◆放射能リスクアドバイザーによる、あやまった〝安全宣伝〟

 専門家の「あやまった」発言によって、県民たちが被ばくさせられた実態も明らかにされてきた。

「原発事故直後、福島県の放射線健康リスク管理アドバイザーとして福島入りした山下俊一氏(長崎大学)は、福島県内で行われた講演会で、『毎時100マイクロシーベルトまでなら外で遊んでも大丈夫』『ニコニコ笑っている人には放射線の影響は来ません』などと、何度も繰り返し発言していました。しかし、『毎時100マイクロシーベルト』は誤りで、正しくは『毎時10マイクロシーベルト』だったと彼は認めたのです。ほかにも、こうした恣意的と思われる誤った発言を彼はいくつもしています。専門家が、こんな単純なまちがいを何度もするとは考えられません」(井戸弁護士)

 事故のあと、福島市では毎時10〜20マイクロシーベルト、飯舘村では毎時40マイクロシーベルトもの放射線量が記録されている。
「毎時100マイクロシーベルトまでなら安全、という山下氏の発言を聞いて安心し、避難せず、子どもを外で遊ばせた親もいたのです」

◆あきらかになった〝不溶性放射性セシウム〟の存在

 そして、水に溶けにくい〝不溶性放射性セシウム〟の存在も、この裁判で明らかにされた重要な事実だ。

「これまで、放射性セシウムは水に溶けやすいので、体内に入っても体液や血液に溶けて大人なら40〜50日で排出されるとされていました。しかし、福島第一原発事故で放出されたセシウムは〝不溶性〟が多いことが足立光司氏(気象庁気象研究所)や宇都宮聡氏(九州大学)などの研究からわかっています。
 宇都宮氏らの研究チームは、『不溶性放射性セシウムは生体に数十年留まることが予想される』としています。つまり、それだけ長く体内で放射線を発し続ける可能性があるということです」

 原告側の証人として立った河野益近氏(元京都大学技官)が、原告の子どもらが通う学校周辺の道路沿いに体積している土の微粒子を調査したところ、放射性セシウムの約98%以上が〝不溶性〟だったという。

「風が吹けば、不溶性放射性セシウムを含んだ土が舞いあがります。1〜2ミクロンの微粒子なら肺の奥深くに取り込む可能性もある。人類が今回はじめて直面する未知の問題で、リスクが予想されるなら〝予防原則〟に立って被ばく防護を徹底すべきです」(井戸弁護士)

 原告代表の今野澄夫さんは、「本当に残念な判決だ。子どもを守らない未来なんか、ありゃしない」と怒りを顕わにした。
 また、14歳と17歳の息子の母である佐藤美香さんも、「〝勝利〟ということしか目の前になかったので、正直、体の力がぬけました。それでも、『お母さんはこれからもがんばるよ』と子どもたちに伝えたい」と述べた。

情報を隠蔽し県民たちに無用な被ばくをさせてきた国と県。原発事故直後の放射線量が高い時期に学校を再開し、安全対策を取らなかった市町村。
 こうした責任を認めず、子どもを守らないような国に未来はない。

井戸弁護団長の裁判評価はこちら。
子ども脱被ばく裁判一審判決(福島地裁2021.3.1)の評価


*追記2021年3月11日*
原告らは3月11日、福島地方裁判所・遠藤東路裁判長による不当判決を受け仙台高等裁判所へ控訴を決定!

声明文はこちら

*原告の陳述や、弁護団からのメッセージを収録した「子ども脱被ばく裁判意見陳述集Ⅱ」が発売されています。
下記からご購入できます。



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和田秀子/hideko wada
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