今日、お話しするのは私がスタッフのメンタルヘルスの重要性を痛感させられた、今思い出しても『ほろ苦い』私の経験です。
ある日、私が出勤するとナースステーションで小声でヒソヒソと複数人のスタッフが話をしていました。そのうちの1人が私に気づくと『主任、見て下さいよ。先日辞めたAさん、昨日、挨拶に来ていたんですけど、皆さんでどうぞ、と言って久助(きゅうすけ)のお菓子を置いて行ったんです。これ、全部ですよ』
そう言われて、休憩室の中を見ると、久助と書かれたお菓子がたくさん置いてありました。
久助(きゅうすけ)とは、製造工程で割れたり欠けたりした、規格外の煎餅やあられなどを集めて、正規品よりも安い価格で販売するものです。割れ菓子。いわゆる訳あり商品ですね。
別に、久助が悪い訳ではなく製造過程において偶然、割れたりして訳あり商品になっただけで、味には何ら問題ないものです。
自分で購入して家庭で食べる分には、安くて美味しいので消費者にとっては、ありがたい商品です。
ただ、退職した後の職場へのあいさつに持参しようと思うかと言うと、正直なところ疑問符が付くのではないでしょうか。
ここで、退職したAさん(看護師)について説明させていただきます。
Aさんは職員間で普通に話をする分には、明るく気前も良くて【良い人】だった印象です。
ただ、仕事に対してやる気が見受けられず(例えば、患者様たちが転倒したり危険のないように、見守りをしている時に新聞を読むことに没頭するなど)患者様に対しても、威圧的な言葉で対応するなど、接遇面でも苦情が度々出ることがありました。
当時の看護師長と私も、幾度となく本人と対話し、説明・指導にあたりましたが改善が見られませんでした。
いわゆる1年毎に更新の契約社員であったAさんに対し、病院は契約を更新することなく、Aさんは退職することになったわけです。
私たち以外の他の職員のAさんに対する言動や態度も厳しいものがあったため、もしかするとAさんは職場を深く恨んでいたのかも知れません。
今思えば、退職した日に私から花束を受け取ったAさんが、『いろいろ、ご迷惑をおかけしました』と言った、その瞳は沈んでいたようにも思います。
Aさんは、久助のお菓子を持ってきたときも、その場にいた職員が『今までありがとうございました』と声かけしたとき、無言で立ち去ったそうです。
久助のお菓子を職場へのお礼に選んだ意味は、訳あり商品と自分自身の環境を重ね合わせた、Aさんの渾身の皮肉だったのかも知れない…
そう思ったとき、私はAさんの心を深い闇に堕としてしまったのだとしたら、その責任は気づいてあげられなかった私にもあると感じ、罪悪感や自分自身の力不足になんとも言えない感情になりました。
立場上、どうしても指導・教育しなければならないこともあります。
しかし、もう少し普段からAさんとの関係性を深めていれば、もう少しAさんの職場満足度を高めることができていれば、もしかしたら全てが違う結果になっていたのかも知れません。
失った時間はもう取り戻すことはできませんが、このときの私の『ほろ苦い』体験はスタッフのメンタルヘルスや満足度を考えることができるようになった契機となりました。
スタッフのメンタルヘルスに配慮したり、職場満足度を高めることが、良い患者対応にも繋がり、患者満足度の向上にも繋がるという想いを胸に、今後も励んでいくつもりです。