【徒然草考：第九十一段】赤舌日
徒然草を読み解きつつ人生のたしなみを学びなおす「徒然草考」。
第九十一段をお届けします。
第九十一段：赤舌日
原文
※古文体が苦手な方は読み飛ばして現代語訳におすすみください。
赤舌日といふ事、陰陽道には沙汰なき事なり。
昔の人、これを忌まず。
この比、何者の言ひ出でて忌始めけるにか、この日ある事、末とほらずと言ひて、その日言ひたりしこと、したりしことかなはず、得たりし物は失ひつ、企てたりし事成らずといふ、愚かなり。
吉日を撰びてなしたるわざの末とほらぬを数へて見んも、また等しかるべし。
その故は、無常変易の境、ありと見るものも存ぜず。
始めある事も終なし。
志は遂げず。望みは絶えず。
人の心不定なり。
物皆幻化なり。
何事か暫くも住する。
この理を知らざるなり。
「吉日に悪をなすに、必ず凶なり。悪日に善を行ふに、必ず吉なり」と言へり。
吉凶は、人によりて、日によらず。
赤舌日：六日ごとに訪れる不吉な日。
陰陽道においては赤舌神が六鬼の鬼神（明堂神・地荒神・羅刹神・大澤神・白道神・牢獄受神）を使役し、六日周期で一鬼ずつ遣わし守護をさせると言われている。
赤舌日は羅刹神（らせつてん）が支配する日で不吉とされる日。陰陽道：中国から伝来した方術、占い。
変易：変わりやすく、常に変化する状態のこと。
現代語訳
※著者の個人的な解釈による現代語訳です。
六日ごとに訪れる赤舌日という日がある。
陰陽道の占いの世界では取るに足りない当たり前の事である。
昔の人は、こんな事は気にせずに暮らしていた。
最近になって、誰が言い出したのかは知らないが、不吉な日だと言う事になって、嫌うようになった。
この日に始めた事は、中途半端で終わり、言った事、行った事は、座礁し、手に入れた物は、紛失し、立てた計画は、失敗に終わると言うのは、誠に馬鹿げている。
敢えて大安吉日を選んで始めた事でも、その先を見てみれば、赤舌日に始めた事と同じ確率で上手くいってない。
世界は不安定で、全ての物事は、終わりに向かって緩やかな軌跡を描いている。
そこにある物が、永遠に同じ形で存在することなどない。
成功を目指しても、最後は失敗し、目的が達成できないまま、欲望だけが膨れあがる。
人の心とは、常に矛盾している。
物は、いつか壊れて無くなる事を思えば、幻と一緒。
永遠など無い。
このような世の仕組みを理解していないから、吉日の悪い行いは、必ず罰が当たり、悪日の良い行いは、必ず利益があるなどと、寝言を言うのである。
物事の良し悪しは、心の問題。
日柄と関係ない。
笑えないゲン担ぎ
第九十一段では、赤舌日に捉われてしまう人の心情を描いています。
兼好法師は「すべては心の問題」と一刀両断に断じております。
私はと言えば、六曜に踊らされ、ゲン担ぎをしてしまう人間でございます。
六曜とは、暦注の一つで日の吉凶を占う指標。
本段で登場する「赤舌日」が六曜の根拠ではないかという説も寄せられています。
先勝（せんしょう）：午前が吉、午後が凶
友引（ともびき）：午前が吉、午後が凶。葬式は避けるべき日
先負（せんぶ）：午前が凶、午後が吉
仏滅（ぶつめつ）：一日を通して凶。婚礼は避けるべき日
大安（たいあん）：一日を通して吉。婚礼に最適
赤口（しゃっこう）：正午のみ吉、他は凶。火の元に注意
六曜は中国発祥で、江戸時代に庶民の間で広まり、現在でも冠婚葬祭の日取りを決める際に参考にされています。
六曜はあくまで占いであり、科学的な根拠はありません。
しかし、なぜか私はよく影響されました。
大事な勝負事の前にはカツ丼を食べ、新しい靴を下ろすのは大安の日と決めていました。
通勤途中の神社へのお参りも欠かさない。
もちろん、気休めであることは分かっている。
それでも、何かに頼りたいこの気持ち。
わかる人にはわかる。
「運を天に任せるのは人の常。運を天に任せないのもまた人の常」
これは、かの有名な坂本龍馬の言葉。
龍馬は、運命を信じる一方で、運命に甘んじることなく、自らの力で未来を切り開いていったそうです。
胸がすくとはこのこと。
龍馬の言葉を胸に、自力で未来を切り開いていくべきなのだ。
でも、たまにはゲン担ぎに頼るのもいいと思う。
信じるか信じないかは、その人次第である。
でも、最後に笑うのは、努力した人ということを忘れないでいたい。
ええい、いったいどっちだよ？
年甲斐も無く、揺れ動くジジイの心であります。
終わりに
お付き合いいただきありがとうございました。
徒然草を題材に、あれこれ考えてみることは実におもしろいですね。
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最後までご覧いただき、誠にありがとうございました。
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