【徒然草考：第六十一段】お産の風習
徒然草を読み解きつつ人生のたしなみを学びなおす「徒然草考」。
第六十一段をお届けします。
第六十一段：お産の風習
原文
※古文体が苦手な方は読み飛ばして現代語訳におすすみください。
御産の時、甑落す事は、定まれる事にあらず。御胞衣とゞこほる時のまじなひなり。とゞこほらせ給はねば、この事なし。
下ざまより事起りて、させる本説なし。大原の里の甑を召すなり。古き宝蔵の絵に、賎き人の子産みたる所に、甑落したるを書きたり。
御産：宮中の高貴な方が、皇太子、皇女を出産すること。
甑：瓦製の米を炊く道具。出産の際に落とすことで、胎盤がスムーズに出てくるようにとの願いが込められている。
胞衣：胎盤のこと。
大原：京都市左京区大原。「大原」と「大腹（妊婦の腹）」をかけている。
宝蔵：宝物をしまう蔵。
現代語訳
※著者の個人的な解釈による現代語訳です。
出産の際に甑（こしき）を落とすという行為は、必ず行わなければならないことではありません。
これは、胎盤がスムーズに出てくるようにとのおまじないなのです。
胎盤がうまく出てこなければ、甑を落とす必要もありません。
低い身分の者から始まった風習で、これを行うべきだという確固たる理由があるわけではありません。
「大原の里の甑を召す」というのは、大原（京都市左京区）を「大腹（おおばら）」と掛け合わせた、ただの言葉遊びです。
古い蔵の絵画の中に、身分の低い人が出産する場面で甑を落としている様子が描かれていたことから、人々がこの風習を真似し始めたのです。
お産の風習あれこれ
徒然草の第六十一段では、いにしえのお産の風習を紹介しています。
兼好法師は、但し書きを付けて、「単なる風習であり、何の根拠もない」とちょっと冷静な目線で片付けていますね。
まぁ、当時の兼好法師の立場からするとさもありではありますが、私はこの書きっぷりから兼好法師の「上から目線」を感じ取ってしまいました。
風習に込められた庶民の希望や願いに目を向けて、ほんわかと心温まる一節を加えてほしかったなぁ・・・などと思う次第であります。
さて、ここで気分を変えて、お産にまつわる様々な風習をご紹介したいと思います。
戌の日（いぬの日）のお腹帯
戌の日は、安産祈願や子供の成長を願う日として、古くから日本に伝わる風習があります。
特に妊婦さんが安産祈願のため、戌の日に腹帯を巻く習慣が広く知られています。
妊娠5ヶ月目の戌の日に、安産祈願としてお腹帯を巻きます。
また、戌の日参りを行ったり、帯や腹帯を贈る習慣もあります。
三つ目のおはぎ
赤ちゃん誕生から3日目「三つ目」と呼ばれるこの日に、おはぎを食べる風習があります。
この「三つ目のおはぎ」を親戚や親しい人に配り、出産の報告をします。
母親が体力をつけ母乳の出を良くするために食べ、小豆の持つ厄除けの力を信じたと言われています。
ベビーシャワー
アメリカ発祥のベビーシャワーは、出産前の妊婦を祝うパーティーです。
友人や家族が集まり、贈り物やゲームを楽しむのが一般的です。
妊婦さんと産まれてくる赤ちゃんにシャワーのように降り注ぐお祝いを伝える。
これが「ベビーシャワー」という名前の由来です。
ただ、そもそもベビーシャワーは「お祝い」が目的のイベントではなかったそうです。
初めての出産を控えた妊婦さんに、出産や子育てのアドバイスや激励をするために女性たちが集まったことがベビーシャワーの始まりといわれています。
しかし、今ではすっかりイベント化。
夫や男性の親族・友人も参加するお祝いパーティとして親しまれています。開催時期の目安は妊娠7～8ヶ月頃。
自宅やレストラン、ガーデンパーティなど開催場所は様々です。
インドの「Godh Bharai（ゴッド・バライ）」
インドのベビーシャワーに当たる「Godh Bharai（ゴッド・バライ）」は、妊娠7ヶ月目に行われることが多いです。
妊婦の腹をヘンナで飾り、贈り物を受け取ります。
ケニアの産小屋
ケニアの一部地域では、出産は女性だけの特別な空間で行われます。
産小屋と呼ばれる小屋にこもり、助産婦のサポートを受けながら出産します。
メキシコの「Cuarto」
メキシコでは、出産後、母親と赤ちゃんは「Cuarto」と呼ばれる特別な部屋で40日間を過ごします。
この期間は休息と回復に専念し、家族やコミュニティのサポートを受けながら母乳育児を始めます。
中国の「坐月子（ズオユエズ）」
中国では、出産後の女性は「坐月子」と呼ばれる期間、体を休め、栄養価の高い食事を摂ることが大切だと考えられています。
この期間は、風習や地域によって異なりますが、一般的には1ヶ月間です。
韓国の「トルチャンチ」
韓国では、子供が1歳になると「トルチャンチ」というお祝いを行います。赤ちゃんが将来何をしたいか占う儀式として、様々なものが置かれたテーブルの上で赤ちゃんが最初に手に取ったものを参考にします。
お産に伴う風習は、時代や地域によって様々です。
それぞれの風習や儀式に人々の希望や祈りを感じ取ることができます。
国が変われど、こうして「みんなで命をつないでいく」って人間らしくていいもんですね。
終わりに
お付き合いいただきありがとうございました。
徒然草を題材に、あれこれ想いをめぐらすことは、ことのほか良いものですね。
徒然草を読んであれこれ考えてみたいという方におすすめの書籍をご紹介させていただきます。
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最後までご覧いただき、誠にありがとうございました。
こちらの情報がお役に立ちましたらうれしいです。
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