【徒然草考:第二十二段】言葉遣い
徒然草を読み解きつつ人生のたしなみを学びなおす「徒然草考」。
第二十二段をお届けします。
第二十二段:言葉遣い
原文
※古文体が苦手な方は読み飛ばして現代語訳におすすみください。
何事も、古き世のみぞ慕はしき。
今様は、無下にいやしくこそなりゆくめれ。
かの木の道の匠の造れる、うつくしき器物も、古代の姿こそをかしと見ゆれ。
文の詞などぞ、昔の反古どもはいみじき。
たゞ言ふ言葉も、口をしうこそなりもてゆくなれ。
古は、「車もたげよ」、「火かゝげよ」とこそ言ひしを、今様の人は、「もてあげよ」、「かきあげよ」と言ふ。
「主殿寮、人数」と言ふべきを、「たちあかし、しろくせよ」と言ひ、最勝講の御聴聞所なるをば「御講の廬ろ」とこそ言ふを、「講廬」と言ふ。
口くちをしとぞ、古き人は仰せられし。
今様:現代の流行
木の道の匠:指物師
反故:書き汚した不要の紙
主殿寮:宮中にて庶務を扱う人が待機している場所
最勝講:宮中で天下太平を祈る仏事
御聴聞所:「最勝講」が行われる場所
御講の廬ろ:臨時の御座所
現代語訳
※著者の個人的な解釈による現代語訳です。
文章の言葉遣いなどは、昔の古い文書の方が立派なものが多い。
単に言葉を発するだけでも、口を慎むべきである。
昔の人は、「車を持ち上げよ」、「火を近づけよ」と丁寧に言ったが、現代の人は「持ち上げよ」、「かき上げよ」と短く簡潔に言う。
「主殿寮の人数」と言うべきところを、「立ちあかせ、白くせよ」と言い、「最勝講の御聴聞所」と言うべきところを「御講の廬ろ」と言うところを「講廬」と言う。
このように、言葉遣いは丁寧にするべきだと、昔の人は言っていた。
言葉遣いについて思うこと
徒然草の第二十二段は、文章の言葉遣いについて、古典的な文章の言葉遣いは、現代の言葉よりも丁寧で美しいという兼好法師の考えが述べられています。
言葉はコミュニケーションのツールなのですが、私たちの感情に深く影響を与えるという側面を持っています。
言葉遣い一つで、相手の心を温めたり、傷つけたり、そして自分自身の感情までも変えてしまうこともあります。
好奇心が湧いてきたので、少々調べてみました。
言葉が感情に影響を与える要素
まず、言葉が感情に影響を与える要素について考えてみましょう。
脳のはたらき
言葉は脳の言語野で処理され、同時に感情中枢である扁桃体や帯状回にも影響を与えます。
これが言葉が感情に直結する所以ですね。
ミラーニューロン
ミラーニューロンとは、他者の行動を観察した時に、まるで自分がその行動をしているかのように、脳の同じ部分が活性化する神経細胞のことです。
褒め言葉を聞くと嬉しい気持ちになったり、否定的な言葉を受けると不安を感じたりするのは、このミラーニューロンのはたらきが関係しています。
あたりまえのことですが、言葉と気持ちの関係性という視点で考えるとおもしろいですね。
経験
言葉は、過去の経験や記憶と結びつきやすいものです。
ある言葉が特定の感情を引き起こすのは、その言葉が過去に特定のできごとや感情と一緒に記憶されているためです。
成功体験やトラウマにも言葉が付随しているということなんですね。
条件反射
ある言葉が特定の感情を引き起こすように、私たちは無意識のうちに条件反射を行っています。
たとえば、子供の頃、叱られるときに特定の言葉を使われていた場合、その言葉を聞くだけで不安を感じることがあります。
立場や役割
人との関係性における立場や役割によって、言葉の意味や感情的な重みは変化します。
たとえば、先生から言われた言葉と、友人から言われた言葉は、同じ言葉でも異なる意味や感情を持つことがあります。
言葉遣いが感情に与える具体的な影響
肯定的な言葉
自尊心を高めます。
リラックス効果をもたらします。
モチベーションを高めます。否定的な言葉
自尊心を傷つけます。
自信を喪失させます。
不安や抑うつを引き起こします。
消極的にさせます。あいまいな言葉
不安や混乱を引き起こします。
誤解を生み、人間関係を悪化させます。
ミスや事故を誘発します。
教育や教養を疑問視されます。慇懃無礼な言葉・悪意を含んだ言葉・馴れ馴れしい言葉
相手の警戒心を高めます。
信頼を失います。
無視や攻撃の原因になります。ていねいな言葉・尊敬や尊重を含んだ言葉
好意と尊敬の念を引き出します。
信頼を生みます。
相互理解が深まります。具体的な言葉・明確な言葉
共感を呼び、相手との距離を縮めます。
信頼性を高めます。
行動を明確にして効率的に目標達成できます。
言葉遣いを意識することで得られるもの
良好な人間関係
言葉遣いを意識することで、相手への配慮を示し、良好な人間関係を築くことができます。心の健康
肯定的な言葉を使うことで、ストレスを軽減し、心の健康を保つことができます。目標達成
具体的な言葉で目標を明確にすることで、モチベーションを高め、目標達成に近づけます。自己成長
言葉遣いを意識することで、自己認識を深め、自己成長を促すことができます。尊敬
言葉遣いを意識することで、周囲の人々の見本となり、個人的かつ社会的な尊敬を得ることができます。教育
言葉遣いを意識することで、子供達の健やかな人格形成や教養づくりを行うことができ、愛情深い教育を実践することができます。
こうして噛み砕いて考えてみると、言葉の重要性を再認識できますね。
言葉は単なるコミュニケーションツールではなく、私たちの思考や行動、そして人生そのものを大きく左右する力を持っているのです。
言葉の力を意識し、より良い言葉を選んでいくことで、自分自身も周囲の人々も幸せにすることができるでしょう。
より良い言葉遣いを行うために
子供も大人も、より良い言葉遣いを行うために役立つ書籍を集めてみました。
終わりに
お付き合いいただきありがとうございました。
徒然草を題材に、あれこれ考えをめぐらすことは、ことのほかおもしろいですね。
徒然草を読んであれこれ考えてみたいという方におすすめの書籍をご紹介させていただきます。
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最後までご覧いただき、誠にありがとうございました。
こちらの情報がお役に立ちましたらうれしいです。