『フリージア』松本次郎
ILLでいる秘訣知ってる
復讐が合法化されセックス&バイオレンスが充満した世界を描く、松本次郎の最高傑作、愛蔵版にて復刻!!
フリージア愛蔵版 1 (1) (ビームコミックス)
敵討ちが合法化された世界で、「敵討ち執行代理人」という殺し屋のような職業に就いた主人公の話。
話の大筋は必殺仕事人みたいな感じなのに、作家性が前面に出すぎたいい意味でわけのわからない作品に仕上がっている。
まず、主人公がILLすぎてかっこいい。メガネで冴えない風貌だが特殊部隊に所属していた過去がある。「舐めてたメガネが最強の暗殺マシーン」という中学生男子の妄想が詰まった設定なので、こういうの好きな人にとってはたまらないと思う。ジョン・ウィック的。
物語の最初から精神のバランスを崩していて、四六時中自分が過去に出会った人間の幻覚と話している。ハタから見たら単なる危ない人。
どう見ても強そうに見えないけど、仕事の際は「擬態」という特技を駆使して戦う。
これがめちゃくちゃかっこいい。
「ハンターハンター」のメレオロン、「黒子のバスケ」みたいに人間の意識の死角に入り込める能力といえば良いだろうか。相手の感覚を狂わせることで、「擬態」している間は主人公は他の人間に捕捉されなくなる。ていうより見えているけど正確な情報をキャッチすることができなくなるという方が正しい。
作中の敵討ちは敵討ちの対象と執行者にそれぞれ銃を渡されて行われる一種のサバゲーのような感じなんだけど、主人公は「擬態」で短い間だけ透明人間みたいな状態になれるからほぼ無敵。
「擬態」によって、相手からは「いると思ったらいない」「いないと思ったらいる」っていう「残像だ」的な展開が連発するんだけどこれが画的にスタイリッシュでかっこいい。攻殻機動隊の光学迷彩っぽさもある。
冷静に考えて漫画という視覚表現の中で「擬態」を主人公の必殺技にして、それをアクションシーンと組み合わせるってすごくない?隠れてるだけなのにかっこいいんだよ。
IKKIの単行本は全12巻だけど、2巻での「幽霊」と呼ばれる警護人(敵討ちされる人に雇われるボディガード)との戦いはマジで熱い。
「幽霊」も主人公と同じく「擬態」することができる。間違いなく作中最強の敵で、1番スリリングな闘いなのになぜかけっこう最初の方なのでここだけでも良いから読んでほしい。
お互いが「擬態」を使いながら闘うので、透明人間同士が鬼ごっこをしているような状態。いかに相手を捕捉し、自分の存在を隠すかのギリギリの攻防が描かれる。
「自分と同じ能力を持った相手との戦い」というバトル展開を越えると、徐々に人情ものというか「敵討ち対象者」目線でのエピソードが多くなっていく。敵討ちされる側にスポットが当たるので、それに相対する主人公が無慈悲な殺人マシーン感が際立つ。
「仕事をするんだ」と言って淡々と敵討ちこなす姿勢は必殺仕事人だけど、主人公の精神面が安定しないので、読んでて全然すっきりしない。メンヘラガンアクションという先進的なジャンルだと思う。
「幽霊」戦があまりにも面白かったので、俺の中で傑作の地位はゆるがない。