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1000ルピーのチップの代わりに、折り鶴を。

(妹尾河童さんの「河童が覗いたインド」を読んでいたら、スリランカ旅が懐かしくなった。毎日、ひどい、嬉しい、発見!、ありがとう、もう嫌だと、感情のオンパレードだった10日間。その時の記録。)

 ピンナワラは、80頭以上の象が保護される孤児院があることで有名な街。ひとりで旅行するときは、とりわけ観光地に行くのが少し拒まれる。それでも、何と無く来たからには行かないと損な気がしてしまうので、その有名な象の孤児院へいった。さて、象も一通り見終えたな!というところで一人のおじさんが近づいてくる。

「やああ!象の水浴びはこっちだよ!」と言っていきなりついてくるおじさん。

私は、自分のペースで見たいから、「大丈夫だよ」と何度も断るが、おじさんはさらに執拗についてくる。写真をとるよ、あっちがいいよ、このお土産物やさんがいいよと。しょうがないので、何と無く言われるままについていく。

おじさんは、スポットに連れて行くたびに「Are you happy?」ってきいてくる。日本人なもんで、全然ハッピーじゃないけれど、yeahなんて答えてたから、どんどんいろいろつれまわされる羽目になった。

でも、やはり面倒になったので、何度か逃走を試みた。ちょっと小走りで、おじさんを巻こうとしたり。

けれども、おじさんは、まるで困ったお嬢様を抱えてしまった爺やのように、「おいおい、お嬢ちゃん」と追いかけてくる。

次はここへトゥクトゥクで行こうっていう。わたしは、同じ宿に住んでいる人と待ち合わせの約束をしていたので、もうトゥクトゥクには乗れませんと断る。


「はい、じゃあ、チップは?」。


えー、やっぱりか。いくらか聞くと、


「1000ルピー」。


勝手にガイドしておいて、1000ルピーはない!「高すぎる!」って言ったら、


「じゃあいくらなら払う?」って聞くおじさん。


「100ルピー」


おじさんは、苦笑しながら「それはない、それは最低レベルだよ。」って。


確かに、後から考えたら1000ルピーは日本円で600円くらいで、100ルピーは60円くらいだった。値切っていた値段の小ささに、わたしの心の器の小ささを感じる。

でも、値段じゃないんだ、問題は。


もう仕方がないから、私はカバンから折り紙を取り出して、それで鶴を折って渡した。「これがチップの代わりです。」おじさんは不服そうな顔だったけれど、もう少しで涙目になりそうな私に免じて、「わかった、これで受け取ったことにする」と折れてくれた。



「これは、日本の平和と幸運の象徴なの」って伝えた。



おじさんは、その折り鶴を持って去っていった。



そんな一連のやり取りをみていた周りのスリランカ人が、「僕にも折ってくれ」って続けざまにやってくる。そこで、次は丁寧に鶴を折った。なんだ、いきなり有名人になった気分。

そんなこんなで、スリランカの象の町ピンナワラの道端で、どっしりと腰を据えて鶴を折り続けた。しゅっと背の高いスリランカのお兄ちゃんやおじちゃんたちに囲まれて。10羽ほど折ったところで、待ち合わせの友人がやってきた。


Wow how are you??


それは一気に安心した瞬間。


最後に、もう一人の路上にいたトゥクトゥクドライバーが僕にも折ってくれというので最後に折って手渡した。


「Thank you」とハニカム笑顔で受け取ってくれた。


投げやりに折り始めた折り鶴に、こんなに喜んで受け取ってくれる人がいるなんて、嬉しいな。なんだか、とっても元気になった。スリランカでやっていける、そんな元気が出た日だった。


*********


あの折り鶴はどうしているんだろうな。もうとっくに忘れ去られて、ぽいっとされているだろうか。どこかで、幸運と平和を願うお守りとなっていたりして。


もう出会うことがない名前も知らない人のことを。

いつしかの私の折った折り鶴のことを。

想う日があってもいいよね。


こんな日に。



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