12年間旅する英国紳士と私の2日間
(ちょうど二年前。社会人になる前に、アジア3ヶ国🇵🇭🇲🇾🇱🇰をバックパックで旅行した。その時の旅記録。)
スリンランカの内陸部・ピンナワラで泊まった宿は、ベッドルームが二つだけの小さな民宿。主に、隣接する象の孤児園でボランティアする人が宿泊するところらしいのだけど、夏休みシーズン以外はボランティア参加者が少なく空いているようだった。私が滞在した2日間のお客さんは、二週間ボランティアをするインド系イギリス人のおじさんと私の二人だけだった。おじさんは、インド系なので、見た目がスリランカ人とあまり変わらず、私は最初てっきり宿のオーナーさんだと思っていた。
「イギリスの夏は、実質二週間しかないんだ、夏以外は気分が沈むからね、僕は旅に出るんだよ。」
スリランカの前は、カリブ海で過ごし、スリランカの後は一旦イギリスの家に戻ってそれからモロッコとアフリカへ行くんだって。お金は投資で稼ぐらしく、パソコンがあればどこでも仕事ができるからと言って、この旅暮らし生活をかれこれ12年間続けているらしい。
「家族はどうしてるの?」と聞くと、妻は旅が嫌いだから家にいるけど、娘は旅が好きだから時々一緒に合流するよ。昔は手紙を送っていたから大変だったけれど、いまはインターネットがあるから毎日連絡とるし、何も問題いらないんだ、と。
17歳の時に旅を初めて、そこから旅の魅力にはまり、旅をしながら働くという方法を見つけたおじさん。今ではボランティアプログラムに参加する社会貢献の時間、仏教寺院などにこもり自分と向き合う時間と、ビーチリゾートでのんびりする時間とを交互に繰り返しながら、旅をする。
おじさんの語るストーリーは、古い旅行記を読んでいるみたいにわくわくし、胸が暖かくなるストーリーだった。
宿の周辺には食堂やレストランがないので、私とおじさんは3食ずっと宿で一緒に食べた。時々、民宿を営む夫婦の一人娘が遊びにきては、おじさんのご飯を少しもらったり、いたずらを仕掛けにくる。家の食卓みたいな、温かみのある食事が、毎回楽しみだった。おじさんと私は、時々話したり、時々静かに食事した。
ピンナワラは、日中の気温が毎日40度近くまであがる。スリランカの他の都市と比べても、暑くて、太陽光がさんさんと大地を照り尽くす。だから、一番暑くなる午後は、おじさんも私も宿の庇の下でゆっくりした。庇の下から一歩も出たくないし、椅子からも離れたくない。おじさんは、株の取引をし、私は日本から持ってきた本を読んだ。時々、暑いね〜とか会話を交わしながら、思い思いの時間を過ごす。
目がだんだんと重くなり、眠くなってきた。今にもことんと眠りそうになっていた時だった。パソコンを片手に、おじさんが満面の笑みですたすた駆け寄ってきた。
「今、日本のレゴランドに投資したからね!レゴランドが成功したら、僕が喜んでいると思って、思い出してね!More holiday!」って陽気なおじさん。
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「世界には悪い人もいるけれど、いい人がほとんどだよ。悪い人はちょっと遠ざけておけばいい。まあ、でも大概はいい人だ。」
最後にぼそっと言い残したおじさんの言葉を、私は胸に焼きつけて大切にしている。社会人になって、その言葉は益々重みを増している。