卒業証書をもらえなかった恋
春は出会いと別れの季節。
空に向かって咲く桜を見上げて、キュウンと胸が締め付けられるのは、出会いを待っているからというよりも、今までのように会えなくなる人を思ってなのだろう。
いろいろな場所から卒業してきた。
その季節は春ばかりではなかったけれど、どの場所からの卒業も、思い出しては涙が溢れる。
高校の卒業式。
もしかしたら、もう二度と会えないかもしれない彼の姿を、きちんと目に焼きつけた。
まだコートが必要なくらい寒くて、桜なんて咲く気配はまったくなかった、三月の初め。
会いたいと言えば、彼はきっと会ってくれただろう。
だけど、会いたいと言ったら、ダメだってわかってた。
きちんと強くなって、新しい恋を見つけるまでは、会ったらいけない。
好きって気持ちも、卒業証書をもらって、卒業できたらよかったのに。
「よく頑張りました。だけどもうこの恋から卒業しましょう」
そう書いてある卒業証書をもらって、きちんと卒業できたらいいのに。
心は簡単じゃない。
もうここは、君の居場所じゃない。君の新しい居場所へ行きなさい。
卒業したら、また新しい日々が始まるように、この恋も卒業したら、新しい恋が始まればいいのに。
心は簡単じゃない。
卒業できない恋がありました。
ずっとずっと、卒業できない恋でした。
だから、あなたを忘れられる日が来るまで、会わないと決めました。
だけど、運命の悪戯がふたりをもう一度、引き合わせてくれました。
あの恋から卒業できなくて、もう一度とやり直したけれど、そこはもうやっぱり私の居場所じゃなかった。
それぞれに新しい居場所があって、過去には戻れないことを知った。
あの恋の卒業証書は、今も持っていない。
あの頃に戻りたいと願ったときもあったけれど、今はあの頃の私に伝えたい。
あなたの大切な恋から、卒業なんてしなくていい。だから今を精一杯、後悔のないように生きて。
2021.3.9
いつか自分の書いたものを、本にするのが夢です。その夢を叶えるために、サポートを循環したり、大切な人に会いに行く交通費にさせていただきます。