彼と私に通ずる感覚
冷たい雨の降る六月の北海道の富良野。
ラベンダーのシーズンには早く、観光客はまばらだった。
一年前に別れた、彼の姿を探す。
約束もなにもない、私たちだったけれど、付き合っているときは、よく同じことを考えていて、約束もしていないのに偶然会うことが多かった。
友人たちは、私たちのことを、已己巳己のように雰囲気が似ていると言っていた。
彼と過ごす時間はとても穏やかで、愛おしかった。
いるわけないよね。
富良野に行けば、彼に会えるような予感がしたのは、昨夜のこと。
朝会社にお休みが欲しいと電話をして、富良野に到着したのはお昼もとっくに過ぎた頃。
馬鹿みたいだなと思った。彼のことを思い出したのも、昨夜不意にだ。
たまたまテレビで富良野が映っただけ。富良野に行きたいと話したのも一度きり。彼が覚えているかもわからない。
明日はさすがに休めない。自分の馬鹿さ加減に呆れて踵を返すと、そこに驚く様子で私を見つめる彼が立っていた。
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