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溶けだした想いへさよならを告げる

理玖にさよならを告げて五年。
久しぶりの日本へ戻ってくると、昔よく理玖と待ち合わせをしていた公園へと足を運んでいた。

でも、そこに当然理玖の姿はない。
五年も前に別れているわけだし、明確な約束をしているわけじゃない。
だけど、やっぱりどこか近くにいる気がして、周囲を見渡す。
花壇はオレンジ色の秋桜が満開だった。

「歩?」

名前を呼ばれて振り返ると、そこに立っていたのは理玖だった。

理玖は、変わらない笑顔を向けてくれる。

「理玖」

理玖の笑顔と大きな手が、抱き続けてきた想いと、私の頬を優しく包み込む。

「約束、覚えてる?」

「覚えてくれてるの?」

夢を叶えるために渡米する私に、理玖が言ってくれた言葉がふたつある。


『さよなら』と、『お互いの夢が叶って、またここで出逢えたら、新しいふたりを始めよう』


「もちろん」

心に抱えていたものが、理玖の温もりでスッと溶け出す。

これが私たちのスタートライン。
新しい私たちを始めるための。


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百瀬七海
いつか自分の書いたものを、本にするのが夢です。その夢を叶えるために、サポートを循環したり、大切な人に会いに行く交通費にさせていただきます。