プロダクトライターとは何者か?
少し前から「プロダクトライター」と名乗っています。
といっても、1年前に作った名刺の肩書は迷った末に「UXライター」と載せていて、まだたんまり名刺が残っているのでしばらくそのまま行くと思います。次に名刺を作り直すときは「プロダクトライター」と印刷したい。
プロダクトライターという明確な職種は、おそらくないと思います。私が勝手に名乗っている職業です。試しに「プロダクトライター」でぐぐってみると
・プロダクトデザインライター
・UXライター
・プロダクトコピーライター
というあたりが検索結果に表示されます。
この3つのライター職が何を示しているかというと、端的にいえば「プロダクト(製品)のUIを担当するライター」ですかね。
UIのライターというと、画面文言=UXWritingというイメージも強いですが、私はkintoneヘルプもUIに含まれるライティングだと思っています。ヘルプも製品の一部。
プロダクトライターと名乗る前は、名刺に書いているとおりUXライターと時々名乗ったりしていました。製品文言も担当しているので嘘ではないです。でも、UXライターという言葉からは明らかにヘルプサイトのライティングが抜けているような印象を受けてしまいます。また、最近書き始めたアップデート情報の原稿については「あれはUX・・・かなあ?うーん」と、もやんとするものがありました。アップデート情報はプロモーションページなので、マーケティングの文章スキルが求められます。
ヘルプサイトやリリースノートを書く職種としてよくあるのは「テクニカルライター」です。kintone開発チームでも、ライターを募集する際は「テクニカルライター」という職種名で募集していました。約1年前のことです。
募集要項は私がたたきを考えて、プロダクトマネージャー(PM)に見てもらい、一緒に練り上げていきました。いつもヘルプや製品文言を見てくれているPMが、一番ひっかかっている様子だったのがこの「テクニカルライター」という職種名で、
「テクニカルライター・・うーん。kintoneのヘルプって別に技術文書じゃないし、なんか違う気がする。でも何がいいかわからないから、とりあえずそれでいいです」
というなんともすっきりしない反応でした。
同時期に、社内の各製品のドキュメント担当と打ち合わせをして、「テクニカルライターをもっとアピールしていきたいね」とか「ほかのテクニカルライターは一体どこでどんなことを考えているんだろう」といった話題になったことがありました。
私自身は、残念ながらそこに共感できなかったのです。テクニカルライターという職種をアピールしたいとも、ほかの製品のマニュアルを書いている人たちと会いたいとも、あまり思えませんでした。どうしてそう思うのか、その違和感は何なのか、当時は言語化できませんでした。ただ、私がテクニカルライターという名前にひっかかりを感じ始めたのは、その頃からだった、というのは覚えています。
「テクニカルライター」を検索すると、専門的な技術に関する文章を書くライターという説明が書いてあります。IT製品だけではなく、家電製品や電子機器などの取扱説明書を書く人もテクニカルライターです。分かりやすく正確な文章を書くことが求められ、独創的な文章は求められません(と、求人サイトなどには書いてあります)。
ヘルプ、製品文言、リリースノート、アップデート情報を書く中で、「わかりやすい」ことは当然の前提としてあるとしても、私は「正確な文章」はそれほど意識しません。間違ったことは書かないですが、それってテクニカルライティングに限らず、どのコンテンツでもそうではないでしょうか?
正確な文章というのは文字にするまでもなく当然のことでは?
さらにそこから一歩も二歩も進んで「どういう人がどういうシチュエーションで読むのか」「どう書いたらユーザーに刺さるのか」を徹底的に考えることを心がけています。
どういう人が読むのか。それは、使い始めのユーザーもいれば、何年も製品を使っているコアなユーザーもいるし、あるいは逆にまだ製品を使っていない人が情報収集しているときに読むかもしれない。50代の部長も読むだろうし、30代の情シス担当も読むだろうし、20代の総務の人も読む可能性があります。就活中の学生も読むかもしれない。私が書いているのは、そういうあらゆる人が読むドキュメントです。
リリースノートをレビューしてもらうとき、以前はよく「単に事実を書くんじゃなくて、ユーザーにどう変化が起きたのかを書いて」と指摘されていました。
単に事実を書くリリースノートと、ユーザーが何ができるようになったのかを書くリリースノートは、たとえば以下のような違いがあります。
■単に事実を書く:
・アプリのフィールド一覧に「テーブル」を追加
■ユーザーが何ができるようになったのかを書く:
・フォームの左にあるフィールド一覧に「テーブル」が追加され、ドラッグアンドドロップすることで新しいテーブルを配置できるようになりました。
アプリのフィールド一覧に「テーブル」が追加されたことを知らせたいのではなく、そこから「ドラッグアンドドロップで新しいテーブルが配置できるようになった」ことを伝えたいのです。
以前は「事実を書く」文章が多かったのですが、最近は意識的に「ユーザーにとっての変化を書く」ことをリリースノートでは意識しています。
プロダクトの方向性が、UX重視になってきたことが影響していると思います。
このようなライティングを日々追求することは、「簡潔で正確な文章を書く」と言われるテクニカルライターとは少し方向性が違うのではないか、と半年前くらいから明確に考えるようになりました。簡潔な文章が重要なのではなく、ユーザーに伝わるのであれば長文でもいいし、1ページ内に説明の重複があってもいいのです。kintoneのライターはそう考えています。
あるとき、kintoneのデザイナー樋田さんが、こんなことを分報に書いていました。
「各社のデザイナーたちの肩書きがプロダクトデザイナーになっているので、自分もプロダクトデザイナーにしちゃおうかなぁ」
それが具体的にどういう職種なのか明確に知っていたわけではないのに、プロダクトデザイナーという言葉を見たとき、ピン!と頭上に電球が光るように「それだ」と思ったのです。
樋田さんが普段やっていること=プロダクトデザイナーであれば、私はそれを「言葉」に置き換えて成立する仕事だ。だから「プロダクトライター」だ。自然とそう思ったのでした。
もともと以前から、プロダクトに関わるライターだから素直にプロダクトライターという言葉が役割としてイメージしやすいなあとは思っていました。ただ、新出単語だし、いまいちそれを名乗る勇気はありませんでした。
プロダクトデザイナーは「プロダクトをデザインする仕事」であり、私はプロダクトに関するさまざまな言葉に関わるライターです。
ヘルプも製品文言もリリースノートもアップデート情報も、細かいところだとkintoneの動作環境や制限事項の更新も行っています。
もっとも、製品に関する言葉は私だけが考えるのではなく、PMもデザイナーもエンジニアも考えています。そういう意味では、開発チームみんながプロダクトライティングに関わっている、と言えるのかもしれません。そして私自身も、言葉の部分からものづくりに関わっている、と言えます。
製品はPMやエンジニアやデザイナーだけで作っているのではなく、ライターも「ものづくり」の一員なのです。
そういう意思を持って、今は「プロダクトライター」と名乗っています。
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