薔薇の花束
大学生の頃、付き合って二、三年経つ恋人から、私の誕生日の日、「お願いだから家にいて。」と言われた。
「どうしてデートしてくれないの?」と私は悲しくて憤慨して言われた通り、実家でふてくされて悶々としていた。
嫌われたんだろうか、と悲しみに暮れているお昼頃、玄関のチャイムが鳴った。
出て見ると、配達の人がニコニコして荷物を抱えていた。
「森田美佐子さん宛てです。」
見ると20本近くある真紅の薔薇の花束だった。
送り主は恋人だった。
あまりの美しさと喜びに持ったまま失神しそうになった。
急いで恋人に電話をかけて感謝を伝えた。
そしてどうしてもこれから会いたい、と。
彼は恥ずかしそうに、とても喜んでくれた。
そして、これからやっとデートできる、と。
直接、薔薇を手渡せない男性のシャイな、内気な奥ゆかしさ。
彼は時給550円の文房具屋のバイト代を貯めて、私に薔薇の花束を贈ってくれた。
手取り1000万のお金持ちや、億万長者の薔薇の花束と格が違うのだ。
男性の優しさ。
内気な愛。
人は変わる。
でも、温かい優しい記憶は永遠に変わらない。
その薔薇は、たとえ枯れても、私の心の中で、永遠に咲き続ける。