短編小説『去り際の終電』第3話A bad end
その噂を聞いたのはまさに今日だった。彼女は付き合っている人がいるらしい。特徴を聞くと僕ではなかった。噂というものは怖いものでありもしない虚報が流れるのだ。特に女子は。だが、少し心に引っかかる。噂で聞いただけなのに。モヤモヤと。
彼女の家に行った。彼女はいつもと変わらずだった。その日は初めて僕からお酒を飲みましょうと誘った。ひさびさに食べるチータラや、手作りの半熟卵などを持っていった。大絶賛だった。嬉しかった。そして、チーズ好きな話をした次の話題に、あの噂についてなんとなく聞いてみた。明日の天気を聞くような感じで聞いたのに彼女の顔は一瞬、ほんの一瞬だけ真顔になって、すぐに笑顔になり噂だよ。と日本酒を飲み干した。僕は酔っていたのでその変化に気づかなかった。その日は初めて僕の方からキスをして、次の日の朝は僕がコーヒーを淹れた。彼女は起きてきて、コーヒーを飲んだが美味しくなさそうだった。
その日を境に僕は彼女とあえなくなった。彼女からLINEが来ない。来てもスタンプだけ。何故だろう。何かしたわけでもない。嫌いではないらしいが会いたくないと言われた。何故だろう。
モヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤ。
学校からの帰り道。僕は彼女と明日の待ち合わせの電話をした。場所は彼女の家。彼女は久しぶりに元気な声を聞かせてくれた。さっそく用意に取りかかる。髪を美容師さんに切ってもらい、チョコミントっぽい香水を買ってちょっとつけすぎた。むせていると地下鉄が来て地下鉄に乗った。
モヤモヤ。
もう少しでこのモヤモヤも晴れる。
モヤモヤ。
乗り換えた。
モヤモヤ。
駅に着いた。駅から徒歩5分の彼女の家に歩く。
モヤモヤ。
ガチャっとドアを開けようとした。開かない。電気は点いているが開かない。中から声が聞こえた。
モヤモヤモヤモヤモヤモヤ。
心臓の鼓動がはやくなる。まるで轟音のように大きくドクンドクンと。窓が少しだけ開いていた。人は覗きたくなる。そういうものなのだ。
モヤモヤドクンドクン。
ナカデハタノシソウナフタリガベッドニイテフクヲキテイナカッタ。ボクハシンジラレナクテデモノゾイテルノガバレタラコワクナッタカラニゲタ。
今から俺んち来れる?
とラインを送って自分の最寄り駅に帰った。彼女からはこれから向かう!とラインが帰ってきた。彼女は来るのだろうか。ぼくはバカなので待った。5時間待った。次は終電。
生温い風が僕を寒くさせた。もう夏も終わりが近い、これからは肌寒い季節になる。彼女はどこにもいない。この出口から10分歩くと僕の家だ。空を見上げると街灯があった。ここに街灯があったことを初めて知った。
そんなことを思ってると終電が終わった。顔なじみの小学生の頃の親友に似てる人が通った。懐かしいなと思ってると駅のドアが閉まった。
モヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤ。
チョコミント先輩は遠くへ行ってしまう。僕は追いかけるのだけど。絶対追いつけない。ふと僕の手にはナイフがあった。確かチョコミントはナイフで食べるんだとどこかで聞いた。僕はナイフでチョコミントを刺し食べた。とても美味しいものだった。だがすぐに取り押さえられ気づくと真っ白な部屋に入れられた。
ここにいるといろんなこと思い出す。
2年前初めてチョコミント先輩と、会った時に抱いた気持ち。キスの味。真っ白な部屋に全てが詰まっていた。地下鉄はまだ走っているだろうか。今何時?と聞くと日付が変わった直後、終電が端の駅から出発する時間だった。たぶん今日も彼女は来ない。だけど僕はわかっている。僕の体からはチョコミントの匂いがすることを。
僕はシケイというものになった。ザンギャクだから、だそうだ。今日はシケイシッコウビ、最後に食べたいものと聞かれた?
チョコミント
と答えた。僕はそこで死んだみたいです。