ツラツラ小説。 サンタさん、まだ早いです。

ツラツラ小説。 サンタさん、まだ早いです。


 とても困った。困りすぎている。

 ワイヤレスイヤホンを片耳に指している。別に音楽は聞いていない。街の空気に飲み込まれたくなくて、なんとなく気を保つために指している。思えば君が消えない。考えないようにすればするほど、その存在を大きく感じる。僕はきっと幸せになってはいけない。本気でそう思っている。

 きっと悲劇のヒロインぶってるし、実際問題、まあまあそれなりに幸せな日々を送っている。今以上を求めるのは普通の性だと思うので今までの自分と大して変わっていないのだと思う。強いて言うならば、自己犠牲精神が強まったことくらいだろうか。

 あれから、人と一定の距離を保つことをしないと、他人と上手く話せない。どんな人とも表面上しか上手くやれない気がしている。自分を知ってもらう、知られるのが本当に怖い。

 だから、困った。こんな聖なる日に、僕を知りたいって言ってくれる人が現れてしまった。

 それはきっと本当は、心の底から喜ぶべきなんだと思う。幸せになりにいっていいのだと思う。結局、サンタは大人になってもいるのだと思う。夢を信じれば、幸せを掴みに行く気概があれば。寒くなってきた街中。人混み、慌ただしい年の瀬。

 僕は「知りたいんです」という声をワイヤレスイヤホンをして塞いだ。クリスマスの魔法を信じない僕は最低なんだと思う。

 でも今後、もし僕を知った後に、
あなたとは違う、まだ違う人のことをどこかで気になっていることや、
 本気で幸せになろうとしてないことがバレてしまった時、あなたが、もっと傷つくことを想定した。だから、まだこれくらいの傷で済ませてあげたって思うしかないのだ。イヤホンから音が流れていない。あなたをスルーしてあなたが少し傷ついた顔を横目で見る。でもやっぱり僕は君を探している。考えないようにしている君をずっと探している。だから、僕のところには。

 頼むから……。

 みんなを幸せにしてください。

 車が曲がろうとしている。急がなくてもいいのに急いで交差点を渡る。その車の人がどこかで待っている人にケーキを届けるかもしれない。道ですれ違ったら、先を譲る。その人が想い人に告白する日かもしれない。大荷物の高齢者に席を譲る。もしかすると、孫や子供、ひいては旦那さんへのプレゼントを買っているかもしれない。僕はこれが一番幸せだ。今の僕の最上級の幸せだ。

 だから、サンタさんはいるよ。どこかに。でもまだ来ないで。まだ早すぎるから。頼むから。もう少し待って。

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