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【小説】み


「年賀状、出していいですか?」

年賀状文化が薄れゆくこの日本で、彼女は年賀状を出し続けているという。

彼女の家には、お絵描き好きの子供が5人集まっても大丈夫なくらいの色鉛筆がある。


きっとその色鉛筆を使って年賀状を彩るのだろう。

彼女の申し出に

「是非!」

と返事をしてしまったが、ある事が頭をよぎった。

私はヤギだ。

手紙を読まずに食べる、あのヤギだ。

困った。

色鮮やかであろう年賀状を食べてしまう。

読まずに食べてしまう。

彼女とは2年以上の付き合いだ。

私のその習性を承知の上で年賀状を出すのだ。

読まれないかもしれないのに。

文字に想いを乗せる。

そんな文字を彼女は書く。

食べたら伝わる。

ヤギならわかる。

それを見越して年賀状を出す。

彼女はそういう人だ。

そういう人というか、彼女はクラゲだ。

人間は好きで苦手なクラゲ。

そんなクラゲとヤギが、nマークをタップしたら出逢ったのだ。

手紙にはそれぞれ味がある。

北から届く手紙は苦く、南は甘い。東は酸っぱく、西は塩っ辛い。

彼女から届く年賀状は南から。

よりによって南だ。

絶対に甘い。

色鉛筆の油味と年賀状の甘みが混ざり合った味を想像しただけで、ワクワクする。

食べる選択肢しかない。

だけど、想いを乗せた彼女の年賀状をどうしても読みたい。

どうすれば、食べなくて済むのだろう。

そうだ、私も想いを乗せればいいのだ。

そう、甘い。

甘い年賀状を書こう。

甘みのある。

ツチノコじゃないよ




年が明け、彼女から可愛らしい年賀状が届きました。

ありがとう。









戸惑った理由は、私がヤギだからだ。