幸せなクリスマス(緑)
どうも、こんにちは。
すっかりクリスマスですね。
というわけで、ピリカさんの企画に参加をしちゃいました\(^-^)/
私は4つの色の中から緑を選びました。
なぜなら、緑が好きだからです。
あれ?締め切りは26日でしたか。
実は、ヤギ界隈では今日あたりがクリスマスみたいなんですよね。
んなわけないですが、期間が過ぎてるのに勝手に書きました。ピリカさん、ごめんなさい。
今年最後の投稿を創作で、ピリカさんの企画で締めたいと思います。
それでは皆様
前半はピリカさん、後半の私という異生物の創作をお楽しみ下さい!
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11月に入ったばかりだというのに、もうクリスマスソングなんて。
「気が早いのよ」
誰にも見えないように、菜穂子はふうっ、とため息をつく。
夕方のスーパーマーケットは、人でごった返していた。皆それぞれ忙しそうで、そして何より充実して幸せそうに見える。
「超目玉商品!小松菜88円」
と書かれた値札がなぜか、隣のほうれん草の方についており、客からクレームが来たとフロアマネージャーからのお叱りを受けたばかり。
「小松菜かほうれん草かなんて、見りゃわかるでしょうよ」
形ばかり、すみませんと頭を下げながら菜穂子は口角を下げる。
ああ、もう心底嫌だ。
このクリスマスソングの浮わついた歌声も、やたら充実感に溢れた買い物客も、毛玉のついたカーディガンに、「安さが自慢です」と書かれたエプロンをつけた私も。
なんか、自分まで安売りされてるみたい。
毎日毎日、おなじことの繰り返しだ。
菜穂子は自分のささくれた指先を見つめる。
9時から17時まで、倉庫とレジを往復して、なんとなく1日が終わる日々。
休みの日も、行くとすれば隣町のちょっとお洒落なスーパーだけ。そこで、うちの店には置いてないグリーンスムージーを買うのがちょっとした楽しみなのだ。
それだけ。
最近はメイクもしなくなった。
どうせマスクで隠れるし、だいたい私の顔なんて誰も見ていないんだから。
客が興味があるのは、20%引きのシールが張ってある商品が、ちゃんとその値段になってるかだけなんだから。
このまま、ぱさぱさに乾いて年老いていくのだろうか。毎年クリスマスソングに苛立ちを感じるおばさんになっていくのだろうか。
いま一番頻繁に着てる服が、この緑のエプロンなんて悲しすぎる。
「おつかれさまでした」
今時あり得ない、昭和感漂うタイムカードを印字し、菜穂子は同僚に声をかける。
ジジジ、と辺りに響く時代錯誤な音で、また憂鬱な気分にさせられた。
「おつかれさま。今日の特売イマイチだったよね。佐々木マネージャー、ありゃ売れ筋を読み間違えたわ。ねえ、そう思わない?まあ、また明日ね」
精肉担当の吉村が割烹着を脱ぎながら声を返す。
また明日。
また明日?
また明日、私はおなじ1日を過ごすんだろうか。野菜を棚にならべ、豆腐と蒟蒻の品出しと発注をし、レジが混めばレジに入る。
気にいらないことがあった客にちくちくと嫌みを言われ、ただすみませんと謝る。
朝から晩まで、うかれたクリスマスソングは流れつづける。
私はずっとここにいる。
ずっといる?
私…
あと何年、ここにいるの?
私には、幸せなクリスマスはもうこないの?
「吉村さん…あの…」
菜穂子の顔は真っ青だ。
目は何かを決意したように、見開かれていて、尋常でないのは見てとれる。
吉村は思わず、一歩後ずさりした。
「ど、どうしたの?菜穂ちゃん」
「ごめんなさい、マネージャーには明日連絡します。私…これもう要らない!」
バタバタと店から出ていく菜穂子が投げ捨てたものは、緑色のエプロンだった。
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気がついたら隣町の例のちょっとお洒落なスーパーにいた。
休日にしか来ないスーパー。
いつもは仕事が終わったら真っ直ぐ家に帰るのに、あんな事をしたから動揺して無意識にここに来たみたい。
吉村さん、驚いただろうな…
いきなり意味不明な事言ってエプロンを投げ捨てたんだから。
明日どうしよう…
このまま辞める?でも、どうするの?私に何ができるの?スーパーでしか働いた事がない私に何ができるの?
頭の中が混乱している。
とにかく落ち着こう。
いつもはグリーンスムージーだけど、今日はブラックスムージーを買った。
違うものを買ったからって何も変わらない。だけどなんでもいいから、とにかく抗いたかった。
それに緑を見ると、さっき投げ捨てたエプロンを思い出す。
もう緑は見たくない。
サービスカウンター横にあるイートインコーナでブラックスムージーを飲んだ。
ブラックスムージーには黒胡麻、黒糖、ブラックベリー、ブラックタイガー、黒豆、漆黒、黒蜜が入っていた。
黒胡麻の優しい甘さと、黒糖と黒蜜のエグい甘さをブラックベリーの酸味と黒豆のほろ苦さが絶妙なハーモニーで包みこむ。それをブラックタイガーが台無しにする。まるで漆黒の闇のような味だった。
この闇の味は、今の私には必要なのだ。
混沌とした頭の中をコットンの様に通気性をよくしてくれるからだ。
割引シールを貼る毎日。
品出しと発注の毎日。
タイムカードのジジジ、を聴く毎日。
吉村さんの割烹着姿を見る毎日。
吉村さんの割烹着姿を見る毎日。
吉村さんの割烹着姿を見る毎日。
つまらない毎日。
つまらない吉村さん。
同じことを繰り返す毎日。
もう、うんざりだ。
これまでの平凡な人生をブラックスムージーで溶かしたい。
飲み終えたブラックスムージーの容器をサービスカウンターの裏にあるゴミ箱に捨て、外に出た。
あたり一面雪が降っていて真っ白になっていた。
雪が外灯に照らされ幻想的。
まるで年季の入った冷凍庫の霜のよう。
なんて美しいのだろう。
だけど真っ白だった雪は車の排気ガスや埃ですぐに真っ黒になる。
そう、ブラックスムージーのように。
ノーマルタイヤだったので慎重に車を運転して家路についた。
翌日、佐々木マネージャーには体調不良で休むと連絡した。
結局、私は何も変えられない。
自分でもよくわかってる。私には平凡な人生がお似合いなのだ。
休んでしまったけど、何もやる事がない。ベッドの上でゴロゴロして闇系の動画を観た。すると、オススメに上がっている動画が目に入った。
あれ?
この人…
吉村さんだった。
吉村さんがYouTubeチャンネルを開設していたのだ。
驚いた事にその動画は100万再生されていた。
嘘でしょ?
他の動画を確認すると、どれも100万再生以上だ。
信じられない…
あ、登録者は?
登録者数を見ると、たったの2人だった。
は?
2人?
100万再生だよ?
2人って…
ご両親?
動画の中の吉村さんは割烹着を着ていた。スーパーで着ているあの割烹着だ。吉村さんはすごく楽しそうだった。スーパーで見る吉村さんと違って生き生きしている。
この動画を観ていると、以前、電車の切符を買おうとして手がすべって500円玉を落とした時があった。転がった先におばあさんがいて、そのおばあさんは500円玉を拾い、素早くポケットに入れ何処かへ行ってしまった。それを見た時と同じ気持ちになった。
いたたまれない、そんな内容だ。
なんだろう。
いろんな感情が溢れてくる。
100万再生いってるのに、登録者数2人って…つか、この動画観てる人なんでチャンネル登録しないの?
100万再生だよ?
登録しなよ(笑)
普通するでしょ。
「ちょっ、ヤバい」
笑けてきた。
「あはははははははははは」
止まらない。
「あははははははははほははははははははは」
腹痛てぇ…
なんなの一体
なんなのこの動画
なんなの吉村さん
なんなの私?
漆黒の闇とか
ブラックスムージーとか
変わりたいとか
つまらないとか
同じ事の繰り返しとか
なんなの私?
笑える
つまらなくしてるのも、同じ事を繰り返してるのも私。
私自身なんだ。
もしかしたら吉村さんも私と同じで、何かを変えたくてYouTubeを始めたのかもしれない。
抗っているのか。
それは吉村さんに聞いてみないとわからない。
YouTubeなんて大それた事は私には出来ない。少しずつでいい、変わろう。つまらないって不貞腐れてないで。
カーディガンの毛玉を取って、指のささくれを治す。
まずはそこからだ。
***
12月に入り、相変わらずスーパーマーケットではクリスマスソングが流れている。
佐々木マネージャーは今日も小松菜を目玉商品にしている。
私はというと「安さが自慢です」と書かれた緑のエプロンをつけ、いつもの様に品出し発注をし、同じ事の繰り返しだ。
だけど私なりに少しずつ日常にスパイスを加えている。エプロンに書かれた「安さが自慢です」を「安さが傲慢です」に変えてみたり、目玉商品の小松菜をチンゲン菜に変えたり佐々木マネージャーの反応を楽しんでいる。
吉村さんにはYouTubeを観てる事は言っていない。勿論、チャンネル登録もしていない(笑)。昨日の動画で、クリスマスに生配信をすると告知していた。
今年は楽しいクリスマスになりそうだ。
私には幸せなクリスマスなんて来ないと思っていたけど、今、すごくすごーく幸せだ。
(おわり)
☃︎𖢔𓍄𓃕𝕄𝕖𝕣𝕣𝕪 ℂ𝕙𝕣𝕚𝕤𝕥𝕞𝕒𝕤𓍄𓃕︎𖢔☃︎𓍄