世界の果てまでついて行く
次男を出産した翌日、産院の談話室で面会に来てくれた夫がぽつりと言った。
『タイに転勤になった』
なんてこったー!
家を建てたり子どもを産んだりすると転勤が決まりやすいというが、あのジンクスは本当だったのか。
『そ、そっかー。タイ、か...』
出産直後のタイミングで頭が混乱している上に、私は一度も日本を出たことがない日本大好き人間ときた。
でも、不思議と迷いはなかった。不安はあったけど。
『行くしかない』
なぜなら、国内外の転勤がある夫と結婚する時に母から言われていたのだ。
『○○くんは、転勤がある仕事なんだから、世界中どんな僻地にでもちゃんとついて行きなさいよ』と。
案の定、母に転勤の話をすると
『よかったじゃない!タイ、きっと楽しいわよ』
との言葉。
転勤先がブラジルだろうがアフリカだろうが、母は同じことを言っただろう。
母に言われたからではない。
夫と結婚する時に気持ちは決まっていた。
世界の果てまでついていこうと。
そこからバタバタと準備をして次男が生後半年になる3年前、タイにやってきた。
タイに降り立った日の事は今でも鮮明に覚えている。
12月なのに空港に着くとムッとするような熱気。
暑い暑いと言いながら着てきたヒートテックを脱ぎ、迎えの車に乗り込む。
車窓からは暮れゆくタイの街並み。
空港から遠ざかるにつれて段々と大きなビルもなくなり、工場や野原ばかりが広がる風景が見え始めると、不思議と涙が出てきた。
私は、この国でやっていけるのだろうか。
こんなポンコツな私が異国の地で子供二人を無事に育てていけるのだろうか。
不安で不安で涙が溢れた。
そこから3年。
あの時の私に言ってあげたい。
『大丈夫。なんとかなるよ』
タイの人の優しさに触れながら、子どもたちはのびのびと育っている。
海外だろうが日本だろうが、子育ての悩みは尽きないけど、思い切って飛び出してよかった。
『育児とはこうあるべき』でガチガチになっていた私は、タイに来て、タイの人の育児を目の当たりにして肩の力を抜く事ができた。
ありきたりだが、『多様な価値観』に触れることができた。
その国にはその国の歴史や文化があり、日本人には到底理解できない事も受け入れながら生活していかなければならない。
そうして強制的に価値観を変えられる経験ができたことで、私の人間としての幅はほんの少しだけ広がったのかもしれない。
それぞれの家庭で様々な事情があり、転勤について行く、ついて行かないに正解はないと思っている。
それぞれの家庭で話し合って出た結論が、その家族の正解なのだと思う。
私達家族にとっての正解が『世界の果てまでついていく』だっただけのこと。
これからだって正解は変わっていく。
日本企業の海外進出が進み、若い世代の海外赴任も増えていると思う。
子育て世代で海外赴任を言い渡されるケースも多いだろう。
タイのように恵まれた国でも、『外国人になる』ということは大変なこともたくさんある。
でも、少しでも迷っている方がいたら、飛び込んでみるのもいいかもしれない。
そこでしか出会えない様々なものが、きっとあるはずだから。