背伸びして大人ぶる私を彼はちょっと小馬鹿にして柔らかく笑う
「もう子供じゃないんだから」そんなふうな枕詞を付けられて我慢させられたことは、今まで何度あっただろうか。
そもそも子供と大人の境界線はどこか。中学生になったら?義務教育が終わったら?成人したら?就職したら?
きっと、この世界には毎日毎日夢に向かってただひたすら走っていて、「あいつ、子供だよな」なんて笑われている人はたくさんいるだろう。彼は子供でわたしは大人なのか。夢がないから子供じゃないのか。
「子供っぽいとこ、あるよな」文字にしたらなんだか馬鹿にされているようだけど、わたしはそう微笑まれたとき、なんだか嬉しかった。
ああ、あんなに背伸びをして化粧をして大人ぶってみたのに、わたしの原点はまだまだ子供で。それを目の前にいるこの人にだけはバレてしまっている、変な特別感があった。
彼のその一言は「俺の前じゃ頑張らなくて良い、背伸びしなくて良い」と、そんなふうに聞こえている気がして。一生懸命前に進むために足を動かし続けるわたしの背中を、優しくさすってくれているようだった。
わたしは昔から頑張り過ぎていた。全然前に進めていないのに、とにかくがむしゃらに足を漕ぎ続ければ、誰かが評価してくれる、結果はついてくると思い込んでいた。
その間に周りは一旦立ち止まり、一生懸命頭をフル回転させ大きな一歩を踏み出すのに、考えも立ち止まりもしないわたしは、周りよりも頑張ってるのに全然前に進まないことだけに苛立ちを覚えていた。
漕ぎ続ければ漕ぎ続けるほど焦り、自分の首を自分で締めていることに気付いているのに止まれない。止まる勇気がない。そんなわたしの背中を大きな手のひらでさすり、頭を撫で、子供っぽいと柔らかく笑う彼が、救世主のように見えた。
肩の力が抜けた気がした。大丈夫、この人と一緒ならたとえわたしが立ち止まっても、置いていかない。でもちょっと先にいて、ゆっくり、追いつけるスピードで歩いてくれる。
距離が少し離れてしまっても、わたしがまた走り出せばその手をつかめる範囲に、必ず彼はいてくれる。
ようやく隣に並んだら、転ぶから、と手もちゃんと握ってくれて、方向音痴なわたしよりまた少し前を歩いてくれて、導いてくれる。
寄り道をしても怒らない。その寄り道がたとえ無駄だったとしても、意味のないものだったとしても、気が済むまで一緒に寄り道してくれる。だけど、帰る時間になったら「もう帰るよ」と、ストップをかけてくれる。
ずっと、「子供っぽいところ、あるよな」と笑う彼の隣にいたいと思った。