R6 予備試験再現答案 行政法
第1 設問1
1 取消訴訟(行政事件訴訟法3条2項。以下、法名省略。)の原告適格を基礎付ける「法律上の利益」(9条1項)とは、当該処分により自己の権利もしくは法律上保護された利益を侵害され、または必然的に侵害されるおそれのある者をいう。そして、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益にあたる。本件でXは処分の名宛人以外の第三者であるから、9条2項に従って判断する。
2 Xとしては、造成工事により農地を害されない利益を法律上の利益として有すると主張する
(1)本件処分の根拠規定である法5条は、2項4号において、申請の許可要件として「周辺の農地……に係る営農条件に支障を生ずるおそれがあると認められる」場合でないことを要求している。また、法51条1項は、「土地の農業上の利用の確保及び…関係人の利益」を衡量して必要があると認められる場合に是正命令を出す権限を知事に付与している。これらの規定は、造成工事により周辺の農地を害されないように配慮をする規定である。
したがって、法5条は、Xの主張するような造成工事により農地を害されない利益を保護する趣旨を含んでいるといえる。
(2)そして、農地はいったん浸水し、作物が栽培できなくない状態になってしまうと、復旧するのに相当な期間を要するから、その農地により農業を営む者としては、長期にわたって収入を得ることができず、生活に不可欠な基盤を失うという重大な被害を受ける。そのため、これが財産的損害であることを考慮しても、一般的公益の中に吸収解消されることはできず、法5条は、Xの主張するような土地造成により農地を害されない利益を個々人の個別的利益としても保護しているといえる。
したがって、造成工事により農地を害されるおそれがある者は、原告適格が認められる。
(3)本件で、Xは、造成工事の対象となっている乙土地に接する甲土地を農地として農業を営んでいるため、自己の農地を害されるおそれがあり、上記の利益を有する者にあたる。
3 よって、Xは本件訴訟1において原告適格を有する。
第2 設問2(1)
1 「違法」について
(1)「違法」の意義について、公務員が通常尽くすべき注意意義に違反したことをいうとする見解がある。しかし、このように解すると、国賠の違法抑止機能を害する。また、そもそもこのような判断は過失の段階ですれば足りる。
そこで、「違法」とは、処分の発動要件を欠如していることをいうと解すべきである。
(2)Bが丙土地上に設けた水路は、排水に十分な断面が取られておらず、勾配も十分なものでなかったことから、「周辺の農地…に係る営農条件に支障を生ずるおそれがあると認められ場合」にあたる。そのため、法5条1項の申請許可処分の要件を満たしていない。
(3)よって、「違法」は認められる。
2 「過失」について
(1)「過失」とは、予見可能性を前提とする結果回避義務違反をいい、公務員が通常尽くすべき注意義務に反した場合に認められる。
(2)本件で、Dは、丙土地の水路について目視による短時間の確認を行っただけで、甲土地の排水に支障が生じさせない措置がとられているか具体的な調査をしていないため、Dに期待される調査を行ったとはいえず、注意義務に違反する。
(3)よって、「過失」も認められる。
第3 設問2(2)
1 訴訟要件について
(1)非申請型義務付け訴訟(3条6項1号)の訴訟要件は、①一定の処分、②重大な損害、③補充性、である(以上、37条の2第1項)。
(2)「一定」とは、裁判所の判断が可能な程度に特定されていることをいうところ、Xは法51条1項に基づき乙土地の原状回復の措置を求めているから、裁判所の判断が可能であり、「一定」といえる。また、法51条1項に基づく是正命令は、知事が相手方に対して一方的に作為義務を課すものであるから、「処分」にあたる。
したがって、①一定の処分の要件を満たす。
(3)重大な損害があるかどうかは、37条の2第2項に従い判断する。
Xは、造成工事により、農地として利用している甲土地が害され、長期にわたって農業を営むことができなくなるうえ、本件住宅の床下が浸水による被害を受けていることから、生活の基盤が失われるおそれがあるため、「損害の回復の困難」の程度と「損害の性質」に照らして、重大な損害が生じるおそれがある。
したがって、②重大な損害の要件を満たす。
(4)補充性の要件を欠く場合とは、法令によって特別の救済制度が設けられているような場合であるところ、農地法にそのような特別な救済制度は設けられていない。また、民事訴訟を提起することも考えられるが、民事訴訟と義務付け訴訟では争点や要件も異なるから、民事訴訟の提起が可能であることをもって補充性が否定されることにはならない。
したがって、③補充性の要件も満たす。
(5)よって、訴訟要件は充足する。
2 処分要件について
(1)農地法51条1項は、是正措置について、許可の取消しや条件の変更、条件の不可などの幅のある選択肢を設けている。また、「土地の農業上の利用の確保及び他の公益並びに関係人の利益を衡量して特に必要がある」かどうかの判断にあたっては、知事の専門技術的な見地が不可欠である。そして、命ずることが「できる」という規定もある。
したがって、農地法51条1項の処分については、要件と効果いずれにも裁量が認められる。
(2)そこで、Xとしては、Y県の知事が是正命令をしないことが裁量権の逸脱・濫用と認められることを主張する必要がある(37条の2第5項後段)。
上記のとおり、Xは、Cの造成工事により、甲土地が害され、農業を営むことができなくなり、また、住宅の床水も浸水するおそれがあるという状況であるから、「土地の農業上の利用の確保及び…関係人の利益を衡量して特に必要がある」ことは明らかである。そして、このような状況下で、是正命令を出さないのは、社会通念上著しく妥当性を欠き、その裁量権の逸脱・濫用にあたる。
(3)よって、処分要件も充足する。
以上 4枚
【感想】
原告適格でXの利益を1つしか検討していないのはまずかったかもしれません。また、設問2(2)で問いを無視して効果裁量まで検討してしまった上に、農地法51条1項の各号のいずれかに該当する者であることを検討し忘れしてしまったのが痛いです。
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