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雑文 #258 燕の巣
悲しいことがあって、早いとこ眠ってしまいたいけれど、眠くない。
彼女が、いなくなってしまった。
ひとりで、いなくなってしまった。
苦しかっただろうか。寂しかっただろうか。
病を患っていたので、それほど急な報せではなかったけれど、でもやっぱり急だったね。人は、いなくなる。
彼女はスペインにいた。ずっと歳上の人。友達ではない。親戚だ。私たちは血が繋がっている。
彼女は、ピアニストだった。
私たちはスペインや鎌倉や江ノ島や秋田で日常のなかの非日常をともにした。ほんの短い夏休みのような時間。心はどこか通い合っていた。
詩のような文章を書きたかったけれど、本当のことしか書けない。
彼女と最後に会ったとき、鎌倉で食べた燕の巣。歳のばらばらな3人の、女子会みたいな会食で。おっかなびっくり、私たちは燕の巣を食べた。「美味しいね」「身体に良さそうだね」なんて当たり前のことを口々に言いながら。
スペインに戻る彼女との最後のお別れは江ノ電の駅で。忘れない。どこか、もしかしたらもう会えないのかもしれないという覚悟があったのだろうか。濃いお別れだった。たとえそれがスペイン風だったとしても。笑顔でお別れ。でもちょっと涙がにじむような。
さようなら、とは思わない。
心に彼女がいる限り。
どうか安らかに。