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雑文 #248 名前も忘れてしまったけれど
突然、大学のときクラスが一緒だったある女子のことを思い出した。
大学以来ずっと疎遠で、ほとんど思い出すこともなかったのに。何しろ名前も忘れているぐらいである。でもそういうことが時々ある。
彼女はそこそこかわいかった。背は低く、ふわっとしていて、色白で、育ちの良い感じ。
彼女を意識したのは新歓コンパのときだった。たまたま隣の席にいて、乾杯の音頭のあと生ビールのグラスをぐいっと飲み、「あぁ〜美味しい!」と大きく言ったのだ。
今で言うギャップ萌え?お嬢様っぽい感じなのに、突然のオヤジ感。私は好もしいと思った。と同時に、その頃の私はビールの美味しさなんてわからなかったから、「大人だなぁ」って思った。
派手なグループには属さず、地味めの女の子とつるんでいた彼女。体育の授業のとき、ちっとも真面目に授業を受けていないと気づいた。
私もちっとも真面目に受けていなかったから、共感を覚えたが、彼女はずっと他のかわいらしい真面目な女子とコソコソ話をしていたから、話しかけなかった。そのコソコソ話は恋の話なのだと、勝手に思っていた。そしてなんて女の子らしいんだろうと微笑ましく(と同時に羨ましく)思った。
ふと気づくと、彼女はクラスのある男子とすごく仲良くなっていた。授業の席もいつも隣同士で、よくクスクス笑いながら小声で話をしている。
その男子はなかなか目立つタイプというか、その年齢にしては大人っぽく、都会っぽかった。私は話しかけることができなかった。
でもあるとき、その男子が、たまたまひとつ前の席に座っている私に妙に親しげに話しかけてきたのだ。
何を言われたのか、私はなんて返したのか、全然覚えてない。
もちろん彼女はそのときも隣にいた。
なんていうか、そのとき私が同じノリで話していたら、私たち3人は親しくなれていたのかもしれない。
たとえちょっと親しくなれただけでも、私の大学生活はもう少し彩り豊かになっていたのかもしれない。
彼は目立つタイプだったので、どこかの超有名企業(どこなのかは忘れた)に就職したと聞いたが、彼女のほうは卒業後どうしたのかわからない。
卒業の頃はもう交流もなかったのだ。
突然気になり出している。
彼女はいまどうしているのか。
いま思えば、ふわっとした口調の中に時折鋭い毒があった。
頭の良い子だったんだろう。
そして、あの歳にしては大人びていた。
少なくとも私にとってはそう見えた。
何か、達観したような…
あの男の子とは付き合っていたのだろうか。
私はどうしてそこに興味を持たなかったのだろう。
名前も忘れたような、昔の知り合いのことを、ごくたまにふと思い出すことってないですか?
いやな思いをさせられた人のこともあるけど、そうでもない(むしろ好ましい)人は、今頃どこでどうしているやら?と考えたあと、幸せに過ごしてくれていればいいなぁと、ほんのりと願うのです。