雑文 #117
あっというまに3月。マーチ。
秋田のマーチはまだ、雪が降る。
くるりのライブツアー「チミの名は。」東京公演2日間をたっぷり堪能してから長い東京逗留を終えトコトコ帰ってきた。
心は充填されたはずだけど、どこから手を付けてよいのやらわからない。
くるりは曲も作ってるけどライブも作っている。ライブ自体がアイディアと音楽性とサービスの宝庫の作品。
私は、正っ直に言えば、今回の「チミの名は。」に直前までそんなに期待はしていなかった。いつものライブよりはってことですが。
でもそんな期待(のなさ)もまたくるりに裏切られた。もちろんいい意味で。激しくいい意味でだ。
シングルベストアルバム『くるりの20回転』のリリースツアーということは、シングル曲ばかり演るんじゃないの?と予測していたのだが、私みたいなドツボにはまってるファンにとって、もっと普段演らない曲を演ってほしい、という思いがまずあった。
そしてもう2年半?も出ていないニューアルバムを聴きたい、ニューアルバムレコ発ツアーを早く…という思いもあった。
さらに、最近まで「NOW & THEN」という旧譜の再現ツアーをしていた関係で、6thアルバム『NIKKI』の再現を聴きたいという強い思いもあった。
しかし「チミの名は。」はすべてをクリアーした。
「シングル集のレコ発なのに、いいの?」と心配になるほどシングルではない曲を多く演ったし、その中には『NIKKI』の曲が散りばめられていたからだ。
他にもごく初期の曲、ごく最近の曲、ちょっと前にツアーで演奏してすごかった曲、定番の曲…実に有象無象に散りばめられていたからだ。
散りばめられていたのに、それはひとつのうねりとなった。くるりといううねりとなった。実に内容の濃い、濃縮スープを飲み干したみたいな満腹感を得ることのできる、分厚いライブだったのだ。
メンバー構成も分厚かった。ドラムがふたり。東京初日でもっくんがよく見える位置で観て、私の知らないくるりオリジナル3ピースの時代に思いを馳せた。また2日目はクリフがよく見える位置で観て、またもや彼のドラムに心を射抜かれた。
サポートギターも2本。岸田さん佐藤さんカンジさんDAIKIさんと4本の弦が並ぶさまは圧巻だった。
のっちの鍵盤は実にさまざまな曲を彩った。彼が入るととたんに曲たちがカラフルになる。
そんなバンドの音に圧倒されながらも、結局心を持っていかれたのは最終日の弾き語りコーナーだった。
「The Veranda」というレア曲。この時節の曲だと私は思っている。これだけで胸が満たされているのに、次はまさかの佐藤さんのベースが入っての「遥かなるリスボン」…
このライブでは泣くまい、と思っていたのだが、まんまと涙を流してしまった。なぜなら曲がおそろしく優しくて、そして佐藤さんのベースもおそろしく優しかったからだ。
ここで終わらない。最後に私を打ちのめしたのは(もちろんいい意味で)、「春風」だった。前日ベタにリクエストしたの…それはやはり一番好きな曲を、一番「その時期に」聴きたかったからである。時期って大事じゃない?
岸田くんも「『春風』って曲演ります。春やし」と言ってくれた。そう、やっぱ春やし‼
最後の最後の曲は「Liberty & Gravity」だったが、しんみりとして終わらせず元気づけて終わらせるセットリストもよく考えられていると思う。今回のライブはそういう作品だった。
それから心にいまでもずしんと残っているのは、「HOW TO GO」を演奏する前に岸田くんが言っていたこと。
去年のNOW & THEN3で「HOW TO GO」を演る前にも同じようなことを言っていたように思う。この曲を作ったとき、とてもやる気がなくて、でもうんっとがんばってふんばって、作ってみたらこんなにいい曲ができたのだとか。
今回私は最前列で頬杖をついて聞いていた。岸田くんは耳の穴をかっぽじりながら話していた(イヤモニの異物感が耐えられなかったのだろう)。
「がんばれがんばれ言うのはよくないって世間で言われてますけど、がんばらなあかんときにはがんばったほうがいいと思いま~す(語尾は小憎らしく愛嬌を込めて)」
私のことを言われている!と私は思ってしまったものだ。頬を叩かれたような気持ち。大好きな人に頬を叩かれたら、そりゃ、普通の人からされるよりずっと、痛い。
続けること、って大事だと思う。
私は「コツコツ毎日努力」みたいなのが苦手なほうだが、それ無くして何も成し遂げられない。
くるりを観て私は実にいろんなことを思うのだ。
季節はどんどん過ぎてゆく。