雑文 #162 くるりの『thaw』
待ち望んでいたくるりのニューアルバム『thaw』の解凍時間(配信リリース時間)だというのに、昨晩私は聴かずに寝てしまった。
深夜1時半頃まで起きていたのに。
以前の私だったら深夜0時になるのをカウントダウンして、秒速でダウンロードして繰り返し聴いていたはずだ。
完全におかしい。
だけどそれを取り戻すかのように、今朝起きるとすぐさま「そうだ、thaw聴かなくちゃ」と思い、寝起きが悪いくせに起きたての頭で聴いた。ゆっくりと朝食を準備しながら。
頭から鳴った音は懐かしく感じた。「心のなかの悪魔」…紛れもなく初めて聴いた曲なのに。
ああこれはきっと、過去のアルバムやツアーでよく聴いていた編成の音だから、懐かしく感じるのかもなと気がついた。
「鍋の中のつみれ」…こう来たか。
タイトルだけ見て何度もどんな曲なのだろうかと想像していたが、まさかつみれの擬人化とは…思いつかなかった。
一発で好きになる。
ここで私は思う。私は今こういうのを望んでいたんだと。
近頃のくるりや岸田さんは年相応に成長してどんどん進化して、成熟していっているのに私は置いてけぼり。進化も成長もしていない。まるで鍋の中のつみれみたいに。
時代が戻ると今の自分にちょうどいいのかもしれないと。
「ippo」もまた懐かしい。
東日本大震災の直後の頃のことを思い出す。
「チェリーパイ」もまたタイトルから裏切られた(いい意味で)。タイトルと違って、全然ポップでかわいい曲じゃない。
これはきっともっくんのドラム。こんなに悩ましくどろどろしたドラムは彼にしか叩けない。
そして「evergreen」。
私は最初の「時の流れは…」のフレーズで「これが唯一最近新しく歌入れした曲だ」とわかってしまった。最近の岸田さんの歌い方は違う。
なんか知らないけどすぐに涙が流れてくる。どうしたんだ朝っぱらから私は。トーストをかじりながら泣いている。
これは私好みの曲だ。タイトル見たときからなんか予感があったけど、想像以上だった。
景色が見える。「旅の途中」や「landslide」や「my sunrise」みたいな感じ。ライブでこの曲を聴くさまも想像できた。
次の二曲はインスト曲だったので、私は「evergreen」を引きずった。
ふとiPhoneの通知に「埼玉の医院で新生児と母親が新型コロナ感染」というニュースが入っていたことを思い出した。そしてその新生児が強く元気に育ちますようにと願った。
「Hotel Evropa」と「ダンスミュージック」はインスト曲。
「ダンスミュージック」もすぐ好きになる。ドラム誰?ドラム誰⁉
というかこんな曲があったのか…早く出しといてくれよ…!
それからは何度も聴いたことのある曲。ベストアルバムの初回盤に入っていた4曲だ。
「怒りのぶるうす」が始まると、「これは朝聴く曲じゃないよな」と思いながらコーヒーを飲んだ。4曲とも大好きだけど。
「Giant Fish」を聴きながらまたふと頭をよぎったのが「トリアージ」「命の選択」という言葉。
最近医療の報道でよく聞く言葉だ。
私はなぜかこの曲を聴きながらわかった。
ちょっとノイローゼみたいな近頃の私は、傷ついていたんだと。
戸惑ったり腹立ったり悲しんだり不安になったりしているのには自覚があったが、傷ついているんだな。
くるりの曲は時々自分の気づいてなかった感情や意思を掘り起こしてくれる。
これが自分にとっての最高の効用だと思っている。
「さっきの女の子」「人間通」を聴くと、なぜだか私は元気になって、しゃんとしようって思った。
食べたものを片付けたりお弁当を作ったりしながら、『thaw』2週目を聴いた。
このイメージを書き留めよう、と思った。ここんとこ音楽が聴けなくなった私が聴いた『thaw』のことを。
今は5週目を聴いている。ちなみに岸田さんによるセルフライナーノーツも他の人々の感想も、何も見ない状態で書いているので間違っているところはいっぱいあるかもしれない。
『THE PIER』や『ソングライン』は音数や口数の多いアルバムで、それはそれは上出来な素晴らしいアルバムだったけど、『thaw』はもっと普段着のような、口数も普通より少ないけど何となく言うことわかる、いや却ってもっとわかる、みたいなアルバムだなって思った。
あと数曲プラスされたら口数がちょうどよくなるのかな。
CD発売が待ち遠しい。
※生意気言ってすみません。