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雑文 #264 夕暮れ時がいちばん好き
夕立というには早すぎる時間に大雨が降った。
遠出して仕事している私は大雨に濡れるのがいやだったけれど、それを見計らったように雨はぴたりと止んでくれた。
さっきの雨がなかったかのように明るく晴れる。
いつもより2時間早く仕事を終え、帰途につく。
周りには会社員より学生。
私は途中下車して駅ナカをちょっとずつぶらつく。 本屋でちょっと旅行書とロック誌を立ち読み。お惣菜屋さんでサラダをちょっと買う。ちょっとだけ遠回りして滅多に降りないその駅周辺を散歩する。 全部ちょっとずつ。
帰りはバスで。 バスは電車と違ってのんびりとしている。 東京の電車のピリピリ感が、バスにはない。
イヤホンで音楽をシャッフルして聴いていたら、しばらく聴いていない好きな曲が二曲続けてかかる。
私は唖然としてしまう。
バスの車窓を見ながら曲の世界へ。 と同時に道行く人や植物も目に入り、渾然一体となる。
景色と音楽と私とが、渾然一体となる。
気づくと鳥肌が立っている。
夕暮れ時が私はいちばん好きだ。 ものがなしいけれど、静かできれいで、ホッとする。
バスには30分くらい乗っていた。
外を歩く人々は、そのほとんどは、家に帰るのだろう。 夕げの匂いまで香ってきそうな気がした。
私は それぞれの家に帰る人の心を読もうとする。
温かい家族が待っているかもしれないし、私みたいに猫が待っているかもしれないし、帰ってもひとりかもしれない。帰ってからやりたいことがある人もいれば、やらきゃいけないことがあってうんざりしてる人もいるかもしれない。帰りたくない事情があるかもしれないし、居場所がない人だっているだろう。今日が特別な日の人だって、とことん退屈な日の人だって、いるに違いないのだ。
そんな想像をしていたら、不思議な気持ちになった。
家の近くのバス停に着き、降りた。
今日も夕焼けは優しかった。