雑文 #207 匂い
空が濃くなってゆく。
秋は自然のものがあちこちで色づき、影さえ濃くなる。
9月も半ばに差しかかる。夏の間溺れてた私はようやく水面から顔を出し、立ち泳ぎしながら息をついている気がする。
9月は誕生月であり、誕生日周辺(いわゆるシルバーウィーク内)にくるりが京都音楽博覧会を催してくれる。
イベント自体すごく楽しいし、京都へ旅に出られることも、そこで落ち合う人々に何となく誕生日を祝ってもらえるのも、ここ毎年大切な時間。
今年は残念ながら音博はオンライン開催となったが、その中でまずひとつ、私が再上京してからさらにまたライブに行く機会が増えて熱を入れてる小山田壮平くんがゲストで呼ばれたことが、とてもうれしい。
今夜は彼のアルバム発売記念のオンラインライブがあり、そのライブがとてもとても素晴らしくて、私はご機嫌である。
ところで音博で紹介されているショップがいくつかあって、そこの品をネットで購入できたりするのだが、今年驚くことに、私が愛用している品が取り上げられた。
しかもコラボ商品としてくるりのメンバー3人の名前の付いた品が発売された。
Lisnさんという、お香のお店である。
私は毎年京都へ行くようになって何年目かに、四条烏丸をぶらついていたところそのお店に出会い、買ってみたらどんぴしゃとハマり、それ以来京都へ行くたびに買うようになった。
たくさんの種類のお香を嗅ぎながらその時の気分に合ったものを買う。
そしてしばらく家でその香りを楽しむ。寝る前に、ゆっくりと。
なくなる頃にまた京都へ行くから、足りなくなることはたまにしかなかった。
足りなくなり、別のお香を買ってみても、Lisnの良さには適わなかった。
東京の青山にも店舗があるが、何となく億劫で行けなかったし、ネットで買うのは香りが試せないから躊躇われた。
けれど今回はドドンと買ってみた。くるり3人の名前がついたもの。音博スペシャルパッケージ品。それに加えて「ドレミファソラシ」の各音階の名前が付いたもの。コロナ禍だから、香りが試せなくとも仕方がないとしよう。
お香なんて贅沢品に、かなり出費してしまったがこれは自分への誕生日プレゼントとしようと思った。
このお店が「音楽」や「共鳴」にそれほど意識があったとは知らなかった。
ただ私はここの香りが好きだったのである。
もともとはアロマテラピーみたいな、アロマオイルみたいなものを秋田の店で焚いたり家で寝る前に愉しんだりしていたのだが、あるとき日本のお香のほうがいいと気づいた。
いいというか、合っているというか…
おそらく親友にアロマオイルのセットとお香のセット両方をプレゼントしてもらって、そのあと気づいたのだ。
お寺で本気で焚いているようなお香はあまりにもお彼岸やお葬式の匂いがしてしまうが、このお店のお香はもっと洒落ていた。
店舗では香りはカテゴリーに分けられて、説明も少し付いているが、私はとにかく嗅いでみて好きなものをピックアップする。
それがとても楽しい。
昨年の3月、東京で岸田繁交響曲第二番が演奏された日、急遽サイン会があると知った。
私はその日くるり好きの友人と早めに待ち合わせていたので、サイン会のときに何かプレゼントを渡そう、それを一緒に選ぼうとか言っていたのになんと家にチケットを忘れ引き返さなければならなかった。
短いお手紙は予め用意していたのだが、もはや時間的にプレゼントを買う余裕がなくなり、家を見回したらまだ使っていないお香がいくつかあったので、2~3個掴んでパッケージした。
残念ながら、どの香りを入れたかははっきり覚えてないけどグリーンっぽいものを入れたような気がする。
そのお店の商品が今、音博とコラボしている。
京都の名店だしよく知られていたのかもしれないし、プレゼントの中身はきちんとご本人に届いたかも定かではないが、私は大好きなお店がこんなふうに取り扱われて、すごくうれしい。
もうすぐ商品も届きそうだ。
どんな香りだろうな。
花や植物の香りが、焚いた煙となって少し燻されて匂うのが、私はとても気持ちが良くて安らぐ。
それは言われてみれば、まるで大好きな音楽のようだ。