107.りんご姫の日常 [蟹座17度]
りんご姫はいつだって、自分が大好きだった。
鏡に映る自分も、映らない自分も、大好きだった。
こんなにかわいい子はいない。
りんご姫は、誰に言われずとも、そう感じていた。
しかし村長は違った。
りんご姫を毛嫌いしていた。
りんご姫のことを思うだけで、腹の底から怒りが込み上げてきた。どうしてそうなのかは分からないが、とにかくそうだった。
村長は、一日一回だけ、りんご姫のことを思うことにしていた。そうしないと、日常生活もままならないからだ。りんご姫を嫌わずに済めばどれほど楽だろうかと思うが、そうもいかないのだ。
村長は一日一回、夕暮れ時に、りんご姫をありったけの憎しみをこめて集中的に憎んだ。燃え盛らんばかりの憎しみを、りんご姫に向けた。
そうしてその後、りんご姫のことを忘れ、家族団欒の場に加わり、気持ちをなごませた。
りんご姫はそのような事情について何も知らなかったし、知りようもなかった。
すべては村長が、内々に処理していたのだから。