096.イチゴとビニールハウス [Cm キュリウム] [蟹座6度]

私がビニールハウスの中でイチゴをやっていると、外側からビニールを切り裂くものが現れた。縦にピーッとナイフを入れていく。私は不思議な気持ちでそれを眺めていた。


深夜だから他のイチゴたちはみんな眠っている。私はもの思いにふけってなかなか眠れずにいたので、この異変に気がついた。

ビニールハウスにはちゃんと人間が出入りするための入口がある。だから中に入りたいのなら、それを使えばいい。なぜ新たに切り裂くのだろう?


しばらくすると、切り裂かれたビニールの隙間から、目玉が見えた。

こちらを覗いている。片目しか見えないが、瞳は綺麗な円形をしていた。その丸さに私は見とれた。ビニールハウスなんかでイチゴをやっていると、なかなかこんな綺麗な円には出くわさない。目玉はギョロギョロと左右に動いた。こちらの様子を確認しているようだ。


中に入ってくるのだろうか?

私は息をひそめて見守った。私が気付いていることを知ったら、警戒して入ってこなくなるかもしれない。だから知らんぷりをするようつとめた。


無の境地に入って、自分の気配を消した。深夜のビニールハウス内は、静まり返っていた。



しばらくの間、何の音もしなかった。




痺れを切らして、私は切り裂かれたビニールの方を見た。

覗いていた目玉はいなくなっていた。ビニールの切れ端が、ピラピラと風に揺れている。


ん?

あれ?

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