【掌編小説】縦の糸は、あなた……
僕と彼女は同期入社。織物機器メーカーで働いている。
先日も、お取引先様の、最高級織物機器の整備を、二人で任された。
僕が縦糸の部分を、彼女が横糸の部分を、それぞれ調節した。
僕は、正直、彼女とは名コンビだと思っている。
このまま、人生のパートナーとしても、名コンビになりたいな~。
そんな矢先、一本の電話が。
しばらくすると、うちの社長が、ヒラに、ヒラに、ヒラヒラ、ヒラに、平謝りしている!
一体、どうしたんだろう?
社長のそんなただならない様子に、事務所にいた僕たち社員は、シンッと静まり返っていた。
ただ事務所には、静かに、中島みゆきさんの名曲『糸』が、うっすら、BGMに流れていた。
程なく社長が電話を終え、しばらくすると、僕と彼女が呼び出された。
「えッ! ええーーーッッッ!!!」
先日、僕と彼女が整備したお取引先様の織物機器に、結構な不具合がッ!
縦の糸が、ことごとく、不具合!
「縦の糸は、あなた! 横の糸は、私! この失敗は、全面的に、あなたのせいです!」
社長の前で、僕は彼女から責められまくった。
優しく気弱な社長は、私を責めるどころか、彼女をなだめるのに、必死だった。
「ねぇ、あんた! 社長にこんなけ謝らせておいて、一体、どう責任取ってくれんだよ!」
僕は腹を括った。
「しょうがねぇ、お前と結婚するよ♪」
「はぁ?! あんたと、できちゃってもないのに、どういう責任の取り方なんだよ!」
彼女のことが大好きな僕にとっては、どさくさ紛れに、最高の責任の取らされ方なんだけど……、無茶かな?
無茶だよな♪
ニャハ♪
彼女は赤面すらしていない♪ 赤面どころか青筋を立てている……。
ニャハ♪
彼女の人生にとって、縦の糸は、間違いなく、僕ではないらしい……。
チ~ン♪