緑と黒
お盆前にお墓掃除に行った。
田舎の田舎へ。
暑くなる前に終わらせようということで朝早く起きて7時頃に出発。
本当に田舎。山の中の山。
親族以外誰もここを車で行けるなんて思わないような、そんな場所。
曾祖母が最後に住んでいたその家には牛小屋がある。
私の母がまだ小さかったこと、曾祖母と牛と散歩をしていたそうだ。
広い畑があり、祖父が米作りもしていた。
今は誰も住んでおらず草が生い茂った森状態。
急な坂を上がって家があり、そこからさらに坂を上がって畑が広がり、さらに上がると先祖たちがいる。
お墓にたどり着くまでに生い茂る草たちを処理するのが私に与えられた最初の役割。
庭の草抜きとはわけが違う。量がとんでもないし、何より根の広がりと言いしぶとさと言い終わりが見えない。
紫外線対策をばっちり行い腰を下げて草を抜き続ける。
止まらぬ汗、弱る握力、襲ってくる空腹。
そんなこんなでお墓にたどり着く。
お墓のすぐ裏は山、目の前は崖。
なんでこんなところに先祖を祀るんだ。もっと安全で維持しやすい場所はなかったのだろうか。あったこともない先祖に苦情を言ったってどうしようもないので、大人しくまた草を抜く。
山が近いからなのか、ひどく虫が多い。ここら辺では見られないサイズのアブがぶんぶんぶんぶん飛び回る。草を抜くとこれまた規格外の大きさのアリがうじゃうじゃ出てくる。苔をどけると濃いミミズがにょろにょろ動く。
ある程度見ていると慣れるので可愛げのあるリアクションなんて一切無し。
無心で草を抜く。最新の音楽を先祖たちに聞かせながら草を抜く。途中叔母にうるさい、しつこい、と散々に言われ本物の自然音を楽しみながら草を抜く。
そんな時突如合わられた黒い虫。どす黒い虫。
堅そうな背中にまん丸い真っ黒い目。
怖い。
なぜ幼いこどもたちと哀川翔はカブトムシが好きなんだ。
何が良いんだ。なぜ日差しが照り付ける夏の暑い日にカブトムシを追い求めどこまでも行くのだろうか。なぜ家で母親から嫌だと言われても幼虫を育てるのだろうか。そしてあのよくわからないゼリーはなんなんだ。
一方でカエルは美しい。
お墓に登り遠くを見つめる鮮やかな緑色。
何の嫌悪感も抱かない。
分かった。黒は嫌だ。
私の最も苦手な生物はアリ。ゴキブリと同レベルに苦手。
黒い生物へ嫌悪感を抱く。
カエルは大丈夫だしミミズも大丈夫。
普段黒い服ばかりを着ている自分にも嫌悪感が。
最低限の色味は必要。真っ黒はやめよう。
カエルになろう。