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【大人数用フリー台本】『ベルを鳴らそう〜空のかなたへ〜』(約12000文字)
・ご挨拶
この台本は小学生のときに友人と作ったものを、数年前に結婚する友人へ手紙の代わりに加筆修正して贈った台本で、拙いものですが、形にして残したくて投稿しました🙏🏻
友人との出会いのきっかけが「みかん」で🍊、
みかんの聖地、静岡を舞台にさせて頂いたのですが、私は現地へは実際に行ったことがなく、
自分なりの気持ちを込めて、憧れる想いだけで書きました。色々間違えていたらすみません😭💦
いつかどなたかの目に留まり読んでくださったらうれしいです。
挿絵を入れたくて現在こつこつ更新中です🙇🏻♀️🌸
桃丸みかん
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【あらすじ】
あきは森の中でアオと契約を交わし、記憶を失う。中学生になったあきは様々な出会いの中で自分と向き合っていく。
【キャラクター設定表】
◆葉月あきな…主人公。中学二年生。美術部所属。アオとの契約により、幼少の記憶がない。あきを知る人の記憶も消えた為、小学四年生まで児童養護施設で過ごす。
◆川合ふみか…中学二年生。明るく活発な性格。実家は農家で農園移転のため引っ越してきた。あき達のクラスの転校生。
◆露草アオ…リンの事が好きな(堕)天使。
◆明星かなた…アオの人間界での姿。あき達のクラスの転校生。
◆来宮リン…森の神。食いしんぼう。
◆柏木れい…リンの人間界での姿。ちゃらついているが、わりと全部把握してる人。美術部顧問。
◆福田しゅう…中学三年生。美術部の部長。周りの目を気にせず好きな服を作り、着ている。戦隊ヒーローに憧れている。
◆宮島かずえ…中学三年生。美術部の副部長。誤解されやすい性格。好きな料理を褒めてくれる美術部員には心を許している。面倒見が良い。
◆小塚くらのすけ…中学一年生。美術部の部員。厳格な家庭に育つ。役者志望。犬系男子。ゆきおとは幼馴染。
◆八代ゆきお…中学一年生。美術部の部員。少女漫画家。可愛いものが好き。寡黙だが心優しい性格。厳つい見た目を気にして周囲には秘密にしている。
◆花蓮…リンの恋人。幽体の女性。
◆クマ…アオが魂を吹き込んだ人形
担任教師…30代、女性
校長先生…50代、男性
あきの実母…40代、女性
あきの養母…50代、女性
村人A、B、C、D、E
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
※SE、BGMは当時の表記で変更可能です。
1.出会い
◯森(昼)
(F・I)白
BGM:オルゴール
あき(M)「みかんの花咲くこの森の奥には、神さまが住んでる。私は急いでこの想いを伝えたくなって、お気に入りのクマのぬいぐるみを大事に抱えながら、でこぼこ道を走った」
あき幼年「はぁ、はぁ」
あき(M)「途中で知らない女の子に出会った。その子がいきなり私のぬいぐるみを奪って駆け出したので、私は必死に追いかけた」
あき幼年「待って!」
あき(M)「行き止まりになって手を差しのべた、その瞬間。突然目の前の道が崩れて、女の子が崖の外へ落ちてゆくのを見た」
× × ×
あき(M)「女の子の冷たくなった腕にふれたら、こわくて、のどがつまって、立ち上がることもできない。そんな私に誰かが言った」
アオ「お困りですか?」
あき(M)「見上げるとそこには、深く青い羽のきれいな天使がいた」
あき幼年「この女の子を連れて行かないで。このぬいぐるみあげるから、なんでもするから」
アオ「私の名前は、露草アオ。願いを叶えるかわりに貴方の記憶を頂戴します」
あき(M)「透明な水色の石が光って薄れゆく景色の中で、あの人の声がする」
?「私はあなたを忘れない」
あき(M)「それは、遠いきおくの中のできごと」
(BGM終わり)
(F・O)白
2.転校生
◯教室(朝)
(SE)虫の鳴き声
あき(M)「私は朝の教室の机の上でまどろんでいた。廊下からくつ音がして扉が開いた」
(SE)パンプスヒールの足音、ドアの開く音
担任「今日は転入生を紹介します。川合さん入って」
ふみ「はじめまして。宇佐美から来ました。川合ふみかです。よろしくお願いします!」
あき(M)「となりの席に座った転校生は、なんだか騒がしい女の子だった。私は校内を案内するように言われて」
あき「川合さんだったよね?私、葉月あきな。よろしくね。」
ふみ「えへへ。よろしく葉月さん!」
あき「あ…部活はもう決まった?」
ふみ「んー。前の学校ではバレー部だったんだけど、まだ考え中」
あき「そうなんだ。私、美術部なんだけど、よかったら放課後見学して行かない?」
ふみ「うん。ぜひ!」
× × ×
◯部室(昼)
美術部一同「パンパカパーン。ようこそ、たのしい美術部へ!」
ふみ「お邪魔します…」
あき「紹介するね。右から、お裁縫好きな部長の福田しゅう先輩。見かけによらず目立ちたがり」
福田「この服は僕の最新作だよ」
あき「副部長の宮島かずえ先輩。お料理上手」
宮島「味見する?」
あき「隣は一年生の八代ゆきお君と小塚くらのすけ君。八代君は絵がすごくうまいんだよ。小塚君は役者を目指していて、よく絵のモデルになってくれてるの」
小塚「よろしくね。ほら、ゆきおも挨拶」
八代「ウッス」
あき「最後に顧問の柏木れい先生」
柏木「歓迎するよ。川合ふみか君」
ふみ「いや、あの私、今日は見学に来ただけで…」
柏木「キミは命の恩人だ川合ふみか君。これで廃部の危機は去った!」
美術部一同「わーい」
ふみ「…いやと言えない雰囲気」
あき「ごめんね川合さん。実は部員不足で廃部寸前なんだ。でも無理しないで、入ってくれたらそりゃあ嬉しいけど…。うちの部は顧問の柏木先生がやりたいことやれって立ち上げてくれて、みんな個性バラバラだけど、手作りが好きな人達が集まってて、私はけっこうここが気に入ってるんだ」
(楽しそうなあきを見つめながら)
ふみ「葉月さん。んー、面白そうだしやってみようかな」
あき「ほんとうに?」
ふみ「うん。みんなみたいにすごい事はできないけど、うち農家だから食糧に困ったら言って!」
あき「はっきり断ってくれて良いんだよ?」
柏木「うんうん。そうかそうか。じゃあ早速、校長に報告してくるね。葉月くんはこの新入部員さまを丁重に送り届けるように。それではまた明日会おう」
(SE)ドアの閉まる音
× × ×
◯バス停前(夕)
あき「今日はありがとうね。あ、川合さんの家ってどの辺?」
ふみ「えっと、神社の近くなんだけど」
あき「だったらうちと同じ方向かも。次バス何分かなぁ」
ふみ「ペンダント可愛いね」
あき「え?ああ。お守りみたいなものなんだけど、学校には内緒だから」
ふみ「うん。秘密にする。葉月さん、ずっとこっちに住んでるの?」
あき「川合さんは確か宇佐美から来たんだよね。熱海もいい所だよ。私小さい頃の事ってあんまり覚えてないんだけど、今の家に住んで四年になるかな」
ふみ「そうなんだ。行きたい所いっぱいあるよ〜。宇佐美はね、みかん畑がいっぱいある。みかんの花と海が一望できる絶景スポットがある」
あき「みかんおいしいよね。あ…美術部で今、夏合宿を計画中なんだけど、そこも候補に加えようかなぁ。一応、風景制作が今回の課題だから」
ふみ「真面目に言ってる?本格的に山登るよ?てかちゃんと美術部っぽいこともするんだ、あの人達。葉月さん!私ほんとド素人だから教えてね」
あき「もちろん。あ、バスきたよ」
× × ×
◯校長室(夕)
柏木「コンコーン。校長せんせー、柏木です〜」
校長「入って」
柏木「お疲れ様です。部の公約のことなんですが…」
明星「こんにちは。先生」
柏木「おまえ…なんでここに」
明星「明日からこの学校に転入することになりました。明星かなたです」
校長「ああ。手続きが済んだら柏木先生にも知らせに行こうと思っていたんだが、なにせ急だったもので…。明星さんはご両親の仕事の都合で、先日海外から引越してきたばかりだそうだから、相談に乗ってあげて下さいね」
明星「よろしくお願いします」
柏木「校長先生、こいつちょっと借りてきます」
校長「部活動の件でお話があるのでは?」
柏木「後日また!」
× × ×
◯廊下(夕)
柏木「何しにきたんだ」
明星「せんせいに会いにここまで来たんだよ。驚いた?そんな顔しないでよ」
柏木「いいから帰れ。おまえわかってるのか」
明星「わかってるよ。だから笑ってよ。お願い」
× × ×
◯教室(朝)
(SE)ガヤ
ふみ「おはよう葉月さん。なんの騒ぎ?」
あき「おはよう。また転校生が来るんだって、先生と話してるの見たって」
担任「みんな静かに。もう知ってると思うけど、今日から新しいクラスメイトになる、明星かなたさんです」
明星「明星かなたです。海外での生活が長くて慣れない事が多いので、色々と教えてください」
(あき達に近づいて)
明星「あの…。同じ班みたいだから、よろしくね」
あき「あ、よろしく。班長の葉月です」
ふみ「日本語上手だねぇ」
明星「小さい頃、日本に住んでいたんですよ。ふふ。お二人は仲良しなんですね」
あき「部活が一緒なの。美術部」
明星「へえ」
× × ×
◯部室(夕)
あき「というわけで、合宿のしおりを作ってきたんですが、いかがでしょうか」
福田「ごめんな葉月さんに任せきりで」
あき「表紙は八代君にお願いして描いてもらいました」
ふみ「これ八代君が?こんな可愛い絵が描けるなんて、すごいじゃん!」
八代「趣味で…」
小塚「ふふ。川合さんにも話していいよね?」
八代「…ああ」
(くらのすけ、得意げに)
小塚「見て。ゆきおの描いた漫画だよ」
ふみ「読みたい!すごい…細かいレースやフリルがいっぱいでキラキラだ…尊敬しちゃうよ」
八代「…好きで描いてるだけっすよ」
宮島「うふふ。あ、ここハイキングコースになってるのね。ピクニックみたいで楽しそう。お弁当たくさん作っていくわね」
あき「期待しちゃいます」
宮島「川合ちゃんもよろしくね」
ふみ「はい!」
福田「八代君と小塚君は初めてだろうから、都合の良い日にアウトドアショップ見に行こうか」
八代「ウッス。了解です。くらのすけは外泊許可もらえたのか」
小塚「うん。その日は大丈夫。楽しみだね」
あき「二日目は観光メインなので他に希望があれば…」
(SE)ドアをノックする音
明星「お取り込み中すみません」
あき「明星君」
明星「気になって見に来ちゃいました。迷惑でした?」
あき「ううん。むしろ大歓迎だよ」
福田「葉月さんの知り合いかい?」
あき「はい。今日うちのクラスに転入してきた明星かなた君です」
明星「よろしくお願いします」
(花を差し出すかなた)
福田「お花…僕にくれるのかい⁉︎」
明星「先生を待つ間、外で花がら摘みをしてたんです。こうしてあげると次の花がまた綺麗に咲いてくれるんです。これはドライフラワーにして飾ると良いですよ」
福田「美しい…」
明星「ふふ。合宿、楽しんできてくださいね。すみません。ドアが開いてたので、お話聞こえてきちゃって」
あき「ううん。ありがとう。あ、入部、検討してみてね」
明星「はい。また来ますね」
3.合宿当日
◯山(朝)
ふみ「晴れてよかったね〜」
あき「部長、その改造ベルトは手放さないんですね」
福田「強くなれるよ!おすすめ」
ふみ「誰も逆らえなさそうです。あれ、そういえば先生は?」
宮島「れいちゃんなら車移動してから来るそうよ。どうせ道草食ってるんじゃないかしら。…八代君達、もうあんな所にいるわ」
あき「あれ…」
宮島「どうしたの?葉月ちゃん」
あき「ちょっと落し物したみたいで、たぶんさっきの休憩所だと思うので、先行ってて下さい。すぐ追いつきます」
ふみ「私も一緒に探す!」
あき「ごめん」
宮島「わかったわ。部長行きましょう」
福田「ああ。待ってるよ」
ふみ「行こう」
× × ×
ふみ「ペンダントでしょ。落し物」
あき「うん。…前に少し話したけど、小さいとき事故にあって記憶をなくして、気がついたら施設のベッドの上にいたんだけど、その時に持っていたペンダントだから、記憶が戻るわけでも、本当の両親に会えるわけでもないんだけど、私にとってお守りみたいなものなんだ」
ふみ「じゃあ、絶対に見つけないとね!」
あき「ありがとう」
× × ×
ふみ「あの光ってるの、違う?」
あき「引っかかっちゃってるんだ」
ふみ「ちょっとこれ持ってて」
あき「重っ。リュック何入ってるの?」
ふみ「みかん」
あき「何個持ってきたの…」
ふみ「よいしょ」
あき「ちょっと川合さん危ないよ」
ふみ「大事なものなんでしょ」
あき「…じゃあ私の手、掴んでて」
ふみ「手、小さっ。…会った時からなんとなくなんだけど、私、葉月さんとぜったい友達になりたい!これ獲ったら下の名前で呼んでくれる?」
あき「そんなことしなくても呼ぶよ」
ふみ「ありがと…わっ」
あき「川合さん!!」
× × ×
あき「…川合さん…大丈夫?」
ふみ「うん…なんとか…。葉月さん?」
あき「無茶しないで…」
ふみ「…ごめん」
× × ×
柏木「ハァ…ハァ…」
明星「リン。どうして邪魔するの」
柏木「言ったろ、俺は人間が好きなんだよ。これ以上力を使うな、アオ」
明星「僕は許さない。僕らを閉じ込めたあいつらを」
4.回想
◯回想
アオ(M)「誰かが僕をバケモノだと言った。それに同調するように人々が僕を囲んだ。真っ黒な悪意に埋め尽くされて、いつしか僕は、自分で自分を呪うようになった」
リン「おい。おまえ具合でも悪いのか?」
アオ「誰?」
リン「俺はこの森の神。来宮リン。腹減ってんのか。ほら半分やるよ。しゃーねーなぁ」
アオ「近づくな」
リン「美味いのに〜。…人間はおもしれぇ。色んなもん作るんだ。お前も街に降りてみないか」
アオ「僕はこの森からは出られない。この羽は呪われてるんだ。だからこうして羽が触れないように花をつけるのが精一杯…
なっ何するの⁉︎…触れても平気なの…?」
リン「神だからね。お前、名は?」
アオ「ないよ。そんなの」
リン「じゃあ俺がつけてやる。んー、全体的に青いからアオ。"露草・アオ"なんてどうだ」
アオ「つゆくさ、あお?」
(空を見上げるリン)
リン「空の青と純真の青、お前の羽は希望の青だ」
アオ「…何しにきたの」
リン「ここのみかんうまいんだよ。また来るわ」
アオ「リ、リン!」
リン「呼び捨てかよ。まぁいいよ。じゃあな」
アオ「露草、アオ…」
(回想終わり)
× × ×
アオ(M)「禁忌を破った天使には、快楽と引き換えに罰が下される」
アオ「漆黒の羽、僕に力を与えて。たとえ何を敵に回しても」
クマ「クマ?」
× × ×
◯フラッシュ
村人A(若い男)「神と人が契りを結ぶなど許されぬ重罪」
村人B(中年の男)「飢えに苦しむ民が大勢いるというのに」
村人C(老婆)「なんと恐ろしい女だ」
村人D(若い女)「全てはあの女のせいよ」
村人E(老爺)「足の爪から一枚ずつじゃ…」
花連「私にはあなたがわかるわ。だから大丈夫、大丈夫」
(フラッシュ終わり)
× × ×
◯車内(夜)
(飛び起きて、)
柏木「…今頃こんな夢を見るなんて」
× × ×
◯宿(夜)
宮島「もう。びっくりしたわよ。やっと来たと思ったら二人ともボロボロなんだもの。軽傷で済んだからよかったけれど…本当に大丈夫なの?」
あき「ご心配おかけしました」
宮島「少しでも異変を感じたら言うのよ。もう、肝心な時にれいちゃんはいないし」
柏木「よっ。遅れてすまん。途中でうまい飯屋見つけてさ〜。で、良いもん描けたか?」
宮島「どこ行ってたのよ!ぽんこつ!」
(SE):打撃音
柏木「いって。ひどくねえか?あれ、二人どうしたのそれ。早く着替えてきな。食いっぱぐれるぞ」
宮島「信じられない」
ふみ「葉月さんは止めてくれたんだけど、私がムキになったせいでこんな事になって」
宮島「川合ちゃん。私の方こそごめんね。お部屋行きましょうか。八代君、れいちゃん見張っててね」
八代「ウッス」
ふみ「みなさん本当に申し訳ありませんでした」
小塚「今夜はゆっくり休んで」
あき「ありがとう。川合さん行こう」
ふみ「うん」
× × ×
◯車内(朝)
宮島「れいちゃん安全運転でお願いね」
柏木「はいはい」
ふみ「そうだ。宮島さんのお弁当、食べ損ねた」
宮島「またいつでも作るわよ。料理は好きだから」
あき「宮島先輩の手料理すっごくおいしいよ」
小塚「ゆきおと僕でほとんど平らげちゃったよ。部長は少食だから」
福田「うまかったよ。またみんなで行こうよ。それにしても、この辺りはアート施設が沢山あるんだなぁ」
あき「オートマタ美術館?」
柏木「寄って行くか?」
ふみ「面白そう!行こうよ」
宮島「今の時間なら実演も見られるみたいよ」
× × ×
◯館内(朝)
八代「本当に人間が操ってるんだよな?」
小塚「すごい。作り物なのに意思を持って生きてるみたいだ」
あき「一瞬、どっちが本物かわからなくなりそう」
小塚「…葉月さん。僕も親が厳しくて、ときどき操られてるみたいな時があるんだよね」
あき「小塚君」
小塚「でもみんなと出会って夢が見つかって、今は自分である事を誰にも譲りたくない。勉強も両親のためじゃなく夢のために頑張るんだ」
あき「そうだったんだ。話してくれてありがとう」
小塚「うん」
× × ×
◯外(昼)
宮島「素晴らしかったわね。お土産も買っちゃった」
福田「まさに職人技だよなぁ」
宮島「えーと、次は、オルゴール館よね」
柏木「ここ見たら昼飯にしようぜ」
あき「そうですね」
× × ×
ふみ「みんな歩くの早いなぁ」
花連「ちょっとあなた。落としましたよ」
ふみ「え?あ、すみません。ありがとうございます」
花連「もうなくさないようにね」
ふみ「すごい綺麗な人…」
× × ×
◯館内(昼)
BGM:オルゴール
あき「わあ…オルゴールの音色って落ち着くなぁ。なんだか、懐かしい感じ」
アオ「あきな」
あき「え…ずいぶんリアルな人形…」
アオ「可哀想なあきな」
あき「ど、どうして私の名前」
アオ「本当のお母さんに会いたいですか?本当の、あなたに」
あき「何言って…」
アオ「すべてを捨てて過去を取り戻せるとしたら」
あき「すべてを、捨てて?」
アオ「そう…今を過去と引き換えにしても」
あき「本当の、私…?」
アオ「覚えておいて。私はあなたのすぐ側にいるから」
ふみ「葉月さん?」
あき「あ…川合さん…。向こうの方はもう見た?」
ふみ「まだこれから」
あき「じゃあ、一緒に行こうか」
ふみ「うん」
(BGM終わり)
× × ×
◯部室(昼)
柏木「葉月。葉月?おーい?」
あき「はい?」
柏木「どうした。こないだからボーっとして」
あき「すみません。考え事してて」
宮島「葉月ちゃんも川合ちゃんも頂上からの景色見られなかったでしょう。これ八代君が描いた水彩スケッチなんだけど」
あき「きれい…八代君ってほんとに柔らかい線を描くね」
小塚「でしょ?繊細で透き通ってて、僕も大好きなんだぁ。ゆきおの描く絵」
(照れるゆきお)
八代「…今度はもっとゆっくり見たいっすね」
あき「うん。あ、痛っ…」
宮島「葉月ちゃん大丈夫⁉︎指切ったの?」
あき「平気です」
柏木「バイ菌入るでしょ。保健室に行ってきなさい」
あき「わかりました」
× × ×
◯保健室(昼)
あき「失礼します。あれ、誰もいない…」
明星「葉月さん?」
あき「明星君!今日はお休みって聞いてたけど」
明星「体が弱くてね、転校してきたばかりだし出席だけでもと思って、保健室で休ませてもらってた」
あき「そうなんだ。無理しないでね」
明星「合宿は楽しめました?」
あき「楽しかったよ。あ、そうだ。これ明星君にお土産」
明星「僕に?ありがとう。あれ、葉月さん指ケガしてるね。僕に手当てさせて」
あき「あ…明星君は優しいね。あれ、そのクマのぬいぐるみ、明星君の?」
明星「…貰ったんだ。女の子に」
あき「明星君みんなに大人気だもんね。川合さんがうらやましがってた」
明星「葉月さんは彼女のことがとても好きなんだね」
あき「…うん。あ、手当てのお礼にそれ、ほつれてるところ直してあげる」
明星「ああ…」
あき「たくさん遊ばれたんだね。このぬいぐるみ」
明星「幸せだろうか」
あき「役目をまっとうできたら人形も幸せだと思うよ」
明星「そうだといいな」
あき「はい。できたよ。じゃあ私は部室に戻るね。お大事に」
× × ×
明星「一緒に居たかったかい?」
クマ「クマっ!クマクマっ!」
明星「ごめんね。君を苦しめてしまう事になるな。大好きなのに」
クマ「クマ?」
× × ×
◯外(夕)
ふみ「葉月さん、途中まで一緒に帰ろう」
あき「あ、うん」
ふみ「ケガ大丈夫?」
あき「紙で少し切っただけ」
ふみ「痛いよね。そういえば、明日から神社のお祭りがあるんだってね。宮島さん達が言ってた」
あき「ああ。色んな山車とお神輿が街中を練り歩いたり、露店も並んで毎年大賑わいだよ」
ふみ「楽しそうだなぁ。うちからも近いし、明日一緒に行かない?」
あき「…そうだね。行こうか。話したい事もあるし」
ふみ「わかった。じゃあ明日ね!」
5.例大祭
◯祭り(夕)
(SE)和楽器やガヤの音
ふみ「葉月さん、見てみて。らくがきせんべいだって」
あき「川合さん初めて?これ好き」
ふみ「やってみたい!」
あき「うん」
× × ×
花連「リン」
リン「お前、今までどこ行ってたんだよ」
花連「ずっと居たわよ」
リン「嘘つけ…。あいつが、アオがこっちに来てる」
花連「リン、変わらないね。アオの事が心配なんでしょう」
リン「お前も変わってねえよ。お節介」
花連「貴方に言われたくないわ」
リン「俺さ…やっぱお前にはかなわねえよ。"あいつなら大丈夫だ"って、なんで思っちまうんだろうな」
花連「…できるなら、今すぐあなたに触れたい」
× × ×
◯海辺(夜)
あき「ここで少し休もうか」
ふみ「うん」
あき「海きれい。こないだ一緒に見られなかったし」
ふみ「誘ってよかった…。あのさ。無理に話さなくていいし、思い出そうとしなくていいよ」
あき「川合さん、私と友達になろうって言ってくれてありがとう。すごい嬉しかった」
ふみ「あき…」
あき「え?」
ふみ「えへへ。呼んでみたかっただけ」
あき「あ、そういえば言ってたっけ。下の名前でって」
明星「こんばんは」
あき「あれ、明星君」
ふみ「ほんとだ」
あき「明星君も来てたんだ」
明星「今日は特別な日だから」
あき「明星君もここのお祭り初めて?」
明星「君に大事な思い出が増えるほど僕は嬉しいな」
あき「どういう意味…?」
明星「言ったでしょ。僕は君のすぐ近くにいるって」
ふみ「何…」
あき「その羽、あの時の」
アオ「これが僕の本当の姿」
クマ「クマっ!」
ふみ「ぬいぐるみが喋った」
アオ「もうすぐ動けなくなってしまうんだ。君に渡した力のせいでね」
あき「何のこと?」
アオ「そのペンダント…それを君に贈ったのは僕だ」
あき「どうしてこのペンダントの事を明星君が知ってるの?貴方は誰なの…前にも私達どこかで会っていたの?」
アオ「君が僕を呼んだんじゃないか。人間は身勝手な生き物だ。すぐに忘れるくせに、また欲しいと願うんだから」
リン「アオ!」
アオ「リン。僕は悪魔にだってなるよ」
リン「やめろ」
アオ「すべての時があの場所へ戻る。そしてその代償は、君が身をもって知る」
花蓮「きれいな羽が台無しね。アオ」
アオ「花蓮…」
花蓮「欲に飲まれればあの人達と同じになるわ」
アオ「リンも花蓮も、人間が憎くないの?花蓮をあんな風にしたのだって汚い人間達じゃないか!」
リン「憎む事もあるよ。許せない事だって山ほど。それでも俺が好きになったのは人間である花蓮だ。俺はお前にもっと色んな景色を見せてやりたかった。こんな形じゃなく、隣で一緒に」
アオ「僕を見てよ…僕だけを見て!リン!もう…ひとりぽっちはいやだっ」
(F・I)白
(SE)光
あき「そっか。ずっと誰かに似てるなって思ってたの。ひとりぽっちなんかじゃないよ」
ふみ「葉月さん!」
あき「××(ふみ)」
6.あきとふみ
◯回想・森(朝)
(SE)鳥のさえずり
あき幼年「あ、とりさんだ」
ふみ幼年「森には妖精がいて一つずつお花をつけてくれるんだよ」
あき幼年「あなただれ?」
ふみ幼年「私、ふみ!」
あき幼年「私はあきな。みんなあきって呼ぶよ。ここは秘密の場所だから誰にも見つからないと思ってたのに」
ふみ幼年「仲間に入れてくれる?」
あき幼年「じゃあ二人だけの秘密基地ね」
ふみ幼年「わかった!これ約束のしるしのお花、あきにあげる」
× × ×
リン「この頃は一段と賑やかだなぁ」
アオ「リン、来てたの」
リン「おう」
アオ「はい。みかん」
リン「お、サンキュー」
アオ「ほんとリンは食い意地張ってるんだから」
リン「食べることは生きることだ」
アオ「あの子達に会いに来たんでしょ」
リン「みかんのついでだ」
× × ×
ふみ幼年「できた!見て。きっと森の神さまってこんな顔だよ」
あき幼年「えー、神さまはもっと人っぽい形だと思うけどなぁ」
ふみ幼年「ふん。芸術のわからないあきなんてきらい」
あき幼年「私はね、いつも森を守ってくれてる神さまに、今日はこれをあげるんだ」
ふみ幼年「まだ新品じゃん。いいの?」
あき幼年「いいなって思う物をあげたいの。ちょっと待ってて。神さまのとこ行ってくる」
× × ×
アオ「リン、もう帰っちゃうの?」
リン「また来るよ」
アオ「…一緒に居てくれないの?」
リン「俺は、お前に自分の力で飛べるようになってほしいんだよ。食い物だって焦って食ったら喉詰まらせたり腹壊すだろ?ゆっくりいこうぜ」
アオ「わかった。またね」
リン「おう」
アオ「さぁ仕事だ」
女の子「きゃあーー!」
× × ×
女の子「痛いよぉ。お母さん…」
アオ「人間の女の子…。人間の記憶を食べれば、リンとずっと一緒にいられる。僕も自由に空を飛べるのに」
あき幼年「誰か、助けて…お願い」
アオ「よく似ている。その真っ直ぐな瞳。僕は貴女が大好きで、大嫌いだった」
× × ×
ふみ幼年「あき?」
あき幼年「ふみ…私、ふみを忘れちゃう。ごめんね」
ふみ幼年「何言ってるの?あき、ねぇあき!あき!…あき?」
花蓮「その子は目を覚さない」
ふみ幼年「どうして?」
花蓮「それが契約だから。あなたもすぐに忘れてしまう」
ふみ幼年「私はあきを忘れない。ぜったい!」
花蓮「…そう。私も、大切な人を守りたかった。これをあなたにあげる。きっと見つけられるよ。道しるべになるから」
(回想終わり)
(F・O)白
(SE)光
7.みかんの花咲く丘
◯海辺(夜)
ふみ「また、守れなかった…」
花蓮「守れたよ。今度は。ほら」
ふみ「あ…き?」
あき「…ふみ。過去を忘れたのは、私が望んだことなの?ふみ…」
(あきを抱きしめるふみ)
ふみ「優しいあきが好きだよ。今も、昔も」
あき「ふみ」
花蓮「あなたに賭けてみたかったの」
ふみ「あなたはあの時の」
リン「この力、まさかお前」
花蓮「アオに見せたかった。天使でも神さまでもない、人間にしかない真心があること。生まれ変われなくてもいいの。だって私はリンと、あなたに会えたから。アオ。あなたは悪魔なんかじゃないわ」
あき「明星君。そのぬいぐるみ、大切にしてくれてありがとう」
アオ「これは…」
クマ「アオ、アオ!」
あき「あなたが好きみたい」
リン「おい。ちょっとそのクマ貸してみろ」
アオ「え?」
リン「うっわー、汚ねえ。ちゃんと洗ってんのかこれ。んー。やっぱかわいくねーな。ほらよ」
(クマを空に放り投げるリン)
クマ「クマ!クマーー!」
リン「おー、よく飛んだなぁ」
ふみ「ちょ、ちょっとあんた」
リン「飛べるじゃねーか。アオ」
アオ「何するの」
リン「そんなに大事か。そいつが」
アオ「大事だよ。ずっと話し相手が欲しかったんだ。退屈しのぎになればと、気まぐれにぬいぐるみに魂を宿した。名前を呼ばれるたび嬉しかったんだ。リンがつけてくれた僕の名だから。笑ってもいいよ」
リン「友達なんだろ。じゃあおかしくねぇよ」
アオ「うん、うん…」
リン「まったくお前はめんどくさい奴だな。別に俺はどこにも居なくなりはしないだろうが。待つことなんて俺は慣れてるんだよ」
アオ「リン…ごめん、弱くて」
花蓮「私はあなたが羨ましいな。これからは寂しい思いなんてさせないわ。大好きよ。アオ」
アオ「花蓮」
× × ×
ふみ「この人が森の神様⁉︎」
花蓮「ええ」
ふみ「あれ?どっかで見覚えあるような…」
リン「昔お前が描いた俺の絵、まったく似てなかったよな」
あき「いや、こうして見るとちょっと似てるかもね」
リン「罰当たりなやつらめ」
あき「ふふ。…明星君。居なくなっちゃうの?」
アオ「ああ。…君にひどいことを」
あき「またどこかで会えるといいね」
アオ「…うん」
ふみ「あの、花蓮さん?伊豆でお会いしましたよね」
花蓮「そうだったかしら」
リン「花蓮そろそろ行くぞ。お前も相当無茶しただろ。上の奴らカンカンだぞ」
花蓮「会いたかったくせに、私に」
リン「一緒に謝ってやるからさっさと来い。おい。アオ。お前もだらしない顔してないで、行くぞ」
アオ「え⁉︎…うん。またね、あきな」
あき「うん。元気でね。…ふみ。私、今日が最後になればいいと思って来たんだ」
ふみ「あき…」
あき「今と引き換えにしても手に入れてみたかった。でも今に換えられるものなんてあるのかな」
ふみ「わかんない。けど私は、この先も何度もあきに会いに行くよ」
(SE)風の音
× × ×
◯あき自宅(朝)
あき(N)「1年後」
あきの実母「あき?行くわよ」
あき「待って、お母さん」
あきの養母「あの子ったら…」
ふみ「遅いよ。あき!」
BGM(イメージソング):「Bright Daylight」/hiro
あき「日焼け止め塗るの忘れて」
ふみ「あ、私も忘れた」
あき「そうじゃないかと思って持ってきた」
ふみ「ごめんあき」
× × ×
ふみ(M)「あの丘の上、この空の果てで、いつだって呼び合える。だから同じように咲いていて」
(終わり)